「じゃあ、開けるよ」
翔くんがそう言ってあこちゃんの部屋を開けてくれる。
3年前と同じ女の子らしい部屋の中にカズの写真が所々に貼られている。
俺の記憶の中ではもっとたくさん部屋中に貼ってあったような気がしたけど、
あれから掃除以外は一切触れていないというから、俺の中で勝手に想像が膨らんでいたようだ。
それでも部屋に入ったカズは所々に貼ってある自分の写真に驚いて立ちすくんでいる。
「兄ちゃん……来て」
呼ばれて潤と近寄ると俺達の手をしっかりと握ってきた。
得体の知れない恐ろしさみたいな感じかもしれない。
これだけ自分の写真が貼ってあれば不気味だろうし、少し怖くもなるだろう。
「いつから貼ってあるの？」
「途中から写真は変わっているけど、多分最初に写真が送られてきた時からだと思う。
3年前に見せ忘れた昔の写真もあるけど見る？」
「うん」
カズが頷いて翔くんが押し入れから箱を持ってくる。
それを開けると中学生のカズの写真が出てきた。
「最初はこの写真だけを机に飾っていたよ」
そこから送られてくるたびに変えて、枚数も増えて行ったのだろう。
暫く座り込んで写真を眺めていたけど、
「兄ちゃん、今の僕を撮って、そしてここに飾って欲しいんだ。最新の僕を……」
「うん。良いよ」
それからスマホのカメラでカズを撮って、直ぐに翔くんが印刷してくれて
カズの最新の写真が出来た。
それをカズが翔くんに、
「これも飾ってください」と言って、翔くんが壁に飾ってくれた。
最後に飾ってあるのが3年前の写真だ。
あれから3年経って大人になったカズの写真が飾られた。
「あこちゃんの知らない僕でビックリするかな」
「大丈夫だよ。この3年間もあこはカズくんと一緒に生きてきたと思うから」
「ありがとう」
それから少しだけ部屋を見渡して、
「あこちゃん、またね」と言って出てきた。
3年前は部屋の中で泣いていた。やっぱり大人になったのかなぁ。
リビングに戻ってから翔くんがカズに言った。
「カズくん、好きな人がいるんでしょう。
あこの事は忘れて良いよ」
「彼女とは別れたから」
「え？」
「あこちゃんは関係ないよ。俺とは合わなかっただけ」
最近、はるちゃんの話を聞かないと思っていたらやっぱりそうなのか。
大学も変わるし、別々に歩いて行く事を決めたのだろう。
「それにね翔さん。あこちゃんの事は忘れないよ。ずっと俺の中にいるから。
例え好きな人が出来ても、あこちゃんはあこちゃん。ずっと変わらない」
「カズくん…ありがとう」
「でも……この家にはもう来ないと思う。あの部屋はやっぱり辛い。
あこちゃんに会いたい時はお墓に行く。それでも良いかな。ごめんね」
「ううん。謝る事なんてないよ。それで十分。本当にありがとう」
「最後にお願いがあるんだけど……。あこちゃんの写真と一緒にみんなで写真を撮りたい」
「でもみんなでってどうやって？誰かに頼む？」
「大丈夫。うちにスマホ用の三脚があるから」
それからもう一度あこちゃんの部屋に行って、カズの写真が入らない場所に5人で立つ。
真ん中にあこちゃんの写真で一番好きだと言う写真を持ったカズが立ち、両隣りに俺と潤、
翔くんと雅紀くんが立って写真を撮った。
5人で撮り終わった後に翔くんが、
「あこと二人だけでも撮ってあげようか？」と言ってくれたけどカズは首を振った。
「兄ちゃん達と翔さんと雅紀くんの4人がいなければ、あこちゃんとは会えなかった。
あこちゃんと会わせてくれた大切な人達だからこれで良い」
カズの言葉に翔くんと顔を見合わて思わず泣きそうになる。
あこちゃんの部屋を出る時に、
「あこちゃんありがとう。バイバイ」
そう言ってカズが号泣した。
今日、初めての涙だ。写真を撮るまで我慢していたのかもしれない。
この写真を大切に抱えて家に帰ってきた。
この5人+あこちゃんの写真はカズの一生の宝物になった。
「ところでカズの記憶って戻ったの？」
「さあね。もうどっちでも良いじゃん」
終わり
終わりに……。
最後までありがとうございました。
会った事のない子を一途に思い続けるカズ。
メル友と言う話の設定や、こんなに一途な子って今はいるのかななんて
思いながら書いてました。
さて、新作は明後日からの予定です。
今まで通り「付き人」と交互になると思います。
よろしくお願いします。