あこちゃんの家に行く日が決まった。
帰ってからのカズの体調も考慮して春休みの半ば。
直接、翔くんの家に行く事も出来たけど、カズの希望で3年前にあこちゃんと待ち合わせた公園で翔くんと待ち合わせる事にした。
その日は東京に泊る予定で1泊2日という日程。
勿論、日帰りも出来る距離だけど、これもあこちゃんの家に行った後の
カズの状態を考えて決めた。
そして当日。
待ち合わせ時間は当時と同じ11時。全てがあの時と同じ。
違うのは実家からではなくて、じいちゃんの家から行く事くらい。
早目に公園に着いて当時と同じ待ち合わせ場所で待つ。
少しして翔くんがやってきた。
「いらっしゃい」
「3年前もここに翔くんが来てくれたの?」
「そうだよ。あこから時間と待ち合わせ場所は聞いていたから、
俺は少し前に公園に来てカズくんと言う子が来るのを少し離れた所から見ていたんだ」
翔くんも本当に来るとは思っていなかったと、当時言っていた。
その後、翔くんの家に向かう途中も、当時の事を色々と聞いている。
それで気が付いた。カズは当時の記憶を思い起こそうとしているのだ。
翔くんの家に着くと雅紀くんが待っていた。
雅紀くんとはお墓参りに行った時から親しくなって、あれからLINEやメールでやりとりをしているのは知っていた。雅紀くんの顔を見て漸く笑顔になる。
「どうする?おいしいケーキを用意してあるから、食べてからあこの部屋へ行く?
それとも、あこの部屋で食べる?」
一刻も早く見たい筈だけど、「食べてからにする」と言った。
その言葉を聞いて潤が「ふ~」っと息を吐いた。
雅紀くんと一緒に先に行く二人の後ろから潤と話しながら行く。
「どうした?」
「ちょっとホッとした。今日のカズは少し前のめりすぎる気がする。
だから一息ついてからの方が良いんだよ」
「勢いのまま、その気になっている時に行った方が良くないの?」
「カズの気持ちにもよるけど、今まで翔くんと会ってもあんなに話した事は
なかったでしょう。少し気持ちが急いている気がするんだ」
潤の言葉に頷く。
今ではすっかり潤の方が詳しいから、潤の言う通りなのだろう。
いつもと違うのは俺も感じていた。
カズにしてみれば3年前のあの日をもう一度やり直すつもりでいるような気がする。
リビングでケーキとコーヒーを頂く。
俺達は最近の近況を話し合ったりしているけど、カズは話に殆ど入って来ない。
いよいよこの後はあこちゃんの部屋に行くと思ったら緊張して来たのかもしれない。
少し前だったら「やっぱり止めた」と言いそうだけど、今日はその心配はないと思っている。
決めるまでも相当一人でもがいて来ただろうし、行く日が決まってからも明らかに普段とは
違った。だから昨日までは中止にする事も覚悟していた。
「カズが行きたくないと言い出したら当日の朝でもやめよう」と、潤とも話していた。
だけど無事にあこちゃんの家まで来た。後は部屋を見るだけだ。
今度はあの部屋に入ってからの様子が心配になる。
驚いてすぐに飛び出すことも、俺も翔くん達も想定内だ。
「さて、部屋に案内しようか」
翔くんの言葉にカズが立ち上がり、その横に雅紀くんが寄り添う。
みんなに助けられて、さあ、あこちゃんに会いに行こうか。