隼人は食事を終えるとそのまま部屋に入り込んでしまった。
「じゃあ隼人、俺は帰るから。明日はバラエティーの生放送だからね。
Aさんが迎えに来ると思うから頑張って」
返事もしないのでそのまま合鍵で締めて出てきた。
機嫌が悪いなぁ。
何に対してだろう。撮影がうまくいかなかったからか、俺が圭吾の名前を出したからか、
10歳近くも下の子に何を意地になっているのだろう。
圭吾は無事に送り届けたというLINEが入っていた。
それを確認して俺は翼にLINEをする。
「翼、今日はお疲れさま。家に着いた?」
「うん。隼人はどう?」
「ご機嫌斜めだから帰ってきた。翼、忙しい?家に行っても良い?」
「うん。良いよ」
なんだかモヤモヤしている時は翼の顔を見てホッとしたい。
翼の家に行くと「お疲れさま」と迎えてくれた。
「ゴメンな。疲れているのにすぐに帰るから」
「いや、俺もちょっと話があったから」
「なに?」
「隼人の事なんだけどあるスタッフさんに言われたんだけど、
何処か具合が悪いんじゃないかって。凄くだるそうに感じたって言ってた」
「え、具合が悪い?」
もしかして機嫌が悪いのではなくて具合が悪かったのなら大変だ。
食事が終わってすぐに部屋に入り込んでしまったし、
今日1日の様子もそれを考えると全く違って見える。
その場から隼人に電話するけど出ない。
寝ているのかな?眠くてだるい事もあるからそのくらいなら良いのだけど、
とにかく翼とゆっくり話す間もなく隼人の家に向かう。
途中で隼人から電話が入ったので車を止めて出る。
「もしもし隼人大丈夫?」
「うん。ちょっとだるくて……」
「隼人、今そっちに向かっているから待ってて」
もう俺のバカ野郎。機嫌が悪かったんじゃなくて具合が悪かったんじゃないか。
何年マネージャーをやってるんだよ。
そう言えば食事も少ししか食べてなかった。
ふて腐れて食べないのかと思ったけど調子が悪くて食べられなかったのか。
隼人のマンションに付いてい急いで部屋に向かう。
部屋の前でLINEを入れる。
「今、家の前にいるけど合鍵で入って良い?」
「うん」
了承を経て家に入る。
リビングは俺が帰ったまま。
寝室をノックすると「はい」と声がした。
開けて入るとぐったりして寝ていながらも、なんとか笑顔で迎えてくれた。
額には熱さましのシートが貼ってある。
身体を触ると可なり熱い。
「いつ頃から熱が出た?」
「計ってなかったからわからないけど昨夜から微熱くらいはあった気がする。
今朝になって凄くだるくて、熱を測ったのは大野さんが帰ってから」
そう言って体温計を見せる。
38度を超えている。
今はもっと上がっているように思う。このシートだけではダメだ。
「氷あるよね。氷で冷やした方が良い。その前に何か食べて解熱剤を飲もう」
俺は途中で買い物をして食べやすいものと薬を買ってきた。
既に熱で着ている物も少し濡れているので着替えさせて、それからドリンクゼリーくらいなら
食べれそうだと言うので、それを食べて薬を飲ます。
俺はその間に氷をビニール袋に入れた物を幾つか用意した。
薬を飲み終わった隼人をベッドに寝かせて、額や脇の下などにタオルを巻いた氷の袋を入れる。
「これで後はゆっくり寝るだけ。薬も飲んだから寝られると思うよ。
それと俺は今日ここに泊るからね。隣のリビングにいるから何かあったらLINEして。
それと明日の仕事は休みにして貰うからね」
「ごめんなさい」
「ううん。そんな事より早く治そう」
今は色々な事情があって熱があると休むようになっている。
本当は今日から具合が悪かったのに、無理をさせちゃったな。
最も今日休んだらドタキャンと思われていただろう。
だから無理して来たのだろうけど、結局仕事にならなかった。
今回の雑誌の仕事は翼と圭吾の二人で撮影が終わっている。
仕方がないな。元々乗り気でもなかったし、これからは圭吾の事に隼人を巻き込むのはやめよう。
明日医者に連れて行けば、単なる風邪なのかどうかもわかるだろう。
翼もガンのステージ0で手術をして治った。
隼人もそろそろ人間ドックでも受けさせた方が良いかな。
この仕事は普通のサラリーマンと違って健康診断がないから、自主的にやらなければ一生やらない人も珍しくはない。俺は潤のマネージャーになってから定期的に行くようになった。
マネージャーが病気では務まらないからだ。お陰で今のところ健康でやれている。
今は俺の健康診断に合わせて翼もやっている。隼人も誘ってみるかな。
3人同じ日に出来れば仕事への影響も少ない。
薬が効いたのか隼人は苦しい様子もなくて落ち着いて眠った。
俺は潤にLINEと電話で事情を話して、明日の隼人のバラエティーの生番組を
休ませて貰う事にした。
「それで明日隼人に付く予定だったAさんを圭吾に付かせて欲しいんだ。
俺は明日隼人に付いているから。病院も連れて行きたいし…」
「わかった。智までうつるなよ」
そう言って電話が切れた。
そうだな。俺も気を付けないとな。
隼人の様子を見て呼吸が落ち着いているのを確認して、俺も布団に潜りこんだ。