男の人がカズに近づいて行く。
俺と潤は一歩ずつ近寄って行く。
若い男性だ。俺と余り変わらないかもしれない。
この男性がお相手の人なのだろうか。
なんとなく変だなぁ。潤もそう思ったのか俺に近づいてきた。
「あの人なのかな?」
「そうは思えないな」
きちんとした身なりに何処となく育ちの良さを感じる。
そう思っていたらカズが俺を見て手招きをした。
急いでカズに近寄る。
「カズ、どうした?」
「和也さんのお兄さんですか?」
「はい。大野智と言います。こっちは弟の潤です」
「俺は和也さんのメル友だった櫻井亜子の兄で櫻井翔と言います」
「お兄さん……。
メル友だったと言うのは本当なんですね」
「本当です。俺も知ってました」
「え?」
「楽しそうに書いてましたから。亜子にとっては生きがいだったんです」
その言葉が引っかかった。
「それで亜子さんは?」
「1ヵ月前に亡くなりました」
3人共に声が出ない。
「ちょっと場所を変えませんか?良ければうちに寄りませんか?
亜子の部屋も見て貰いたいので……」
「良いんですか?」
「はい。きっと和也さんに見て貰いたかったと思うので……」
カズが漸く話した。
「病気だったんですか?」
「はい。生まれつき心臓が悪くて、10歳まで生きられるかって言われていたんです。
最近は調子も良かったんですよ。春になったらカズくんと会えるって喜んで……」
「カズくん…」
「そう呼んでました。不思議ですね、一度も会ったことのない人なのに
まるで昔からの知り合いのように思ってました」
櫻井くんの家は公園から電車で10分くらいの閑静な住宅街にあった。
櫻井くんの雰囲気からちょっと身分違いの家を想像していたけど普通の一軒家で少しホッとした。
櫻井くんがカギを開けて、
「誰もいないから遠慮しないで上がって良いよ」
「失礼します」
3人で上がる。
「さっそくだけど手を合わせてくれても良いかな?」
和室を開けると仏壇が見えた。
「是非」
仏壇の前に座ると女の子の写真が飾ってある。
亜子ちゃんだ。間違いない。
カズに送られてきた写真と同じ顔をしている。
ここに来るまで少し半信半疑だったけどこれで核心に変わった。
ここでお茶を飲みながら少し話をして亜子ちゃんの部屋に上がらせて貰う。
部屋に入って直ぐにカズの顔が目に入った。
部屋の中にカズの写真が何枚か飾ってある。
普通の大きさより少し大きめな写真が数枚飾ってあった。
「カズくん、ごめんね。勝手なことして…。
亜子がどうしても飾りたいっていうから本人に許可を取ってねと言ったんだけど、
許可取ってた?」
「はい、ありました。写真を飾って良いかって…。僕は恥ずかしいって言ったんだけど、
人には見せないからって……」
自分の写真が並んでいる部屋の中で、我慢できなくなったのかカズが泣き出した。