地獄の学校【社会人編】 43 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

翌日から二人一組で行動するようになった。

見回りも生徒や社員の部屋へ行くのも一人では行かない。

 

危機感があると自然に結束力も出てくる。

 

良いチームになってきたなと思った時に、俺は少し年配の男性と雅也さんが言い争っているのを見かけた。大丈夫だろうかと暫く見ていたけど、何事もなく別れたのでホッとした。

 

 

 

その夜、雅也さんの部屋で俺達は驚くことを聞かされた。

 

「今まで心配かけたけど、もう危険な事は起きないと思う」

 

「それはどうして?」

 

「あれはある人が俺達の団結力を確かめるために仕掛けたことだったらしい」

 

「冗談じゃないよ。一歩間違えていたらどうなっていたか…」

 

「だから運動神経の良い達也を選んだそうだ。ちなみに智くんの方は関係ない。

 恐らく智くんの方は警察の取り調べの動機通りだろう。犯人も別人だ」

 

 

俺は昼間、雅也さんが会っていた人を思い出していた。

きっとその人と関係があるのだろうな。

そう言えば融資を受けていると言っていたから、それと関係があるのかもしれない。

 

お金と人の命を天秤にかけるのか。

 

 

「達也は知ってるの?」

 

カメくんが聞く。少し怒りを含んだ声だ。

 

「知らせてないけど、敢えて隠すこともしない。

 自然に知ってしまったら仕方がない」

 

「兄さんだって言ってたじゃん。怖いからこそ無理して明るく振舞っているって。

 達也が可哀想……」

 

「お前達はまだ若いからやり方が汚いとか、達也が可哀想とか思うだろうけど、

 世の中甘くはない。俺達はこんな経験はたくさんしてきている。

 夢を実現するって言うのは簡単な事じゃないんだよ」

 

 

もうこれ以上、何を言っても無駄だろう。

俺は結局一言も口を聞かずに自分の部屋に戻った。

 

松兄も下手に物わかりの良い大人になっちゃったなぁ。

昔はもっと反骨芯があったのに…。

 

雅也さんにしてもそうだ。雅也さんの夢は素敵な事だと思う。

でもその為に大事な弟を犠牲にしてまでやる事なのだろうか。

 

俺はここにいて良いのかな。

もし、これが達也くんでなくてヒロだったら……。

そう考えたら急に怖くなってきた。

 

 

 

トントン

 

ドアがノックされた。この叩き方は雅也さんだ。

 

「入って良いかな」

 

「俺よりカメくんの方へ行ってあげてください」

 

「前にも言ったでしょう。こういう問題は兄弟や親しい人間じゃダメなんだよ。

 和也には松岡、君には俺……」

 

「ここまでしてまでやらなければならないんですか?」

 

「そうだね。他人には理解できないだろうけど、例え自分の命と引き換えにしても

 実現させたいし、しなければいけないことだと思っている」

 

「そんな……」

 

「君達が思うような単なる夢じゃないんだよ。国会の法案を通すことがどういう事か

 わかっていない。その為に俺も松岡も色々な事を犠牲にしてきた。

 遊びじゃないんだよ!」

 

最後の言葉が凄く強く響いた。

俺らには想像も付かないくらい大きな事をやろうとしているのだろう。

 

 

翌日、8人全員が集まって達也くんにも本当の事を話した。

 

「それで改めてこの7人に聞きたい。これからも色々な事があると思う。

 法案が通ったら通ったでもっと大変になる。

 もしこのやり方について来られないようなら辞めて貰って構わない。

 俺は自分が好きでこの道を選んだ。でもそうではない人もいる。

 無理にはやって欲しくない。直ぐに決めなくても良いけど今週中には

 結論を出して欲しい」

 

「さっき7人と言ったけど俺も入ってるの?」

 

「一応な。いてくれないと困るけどな」

 

松兄が真っ先に決めて、その後に

 

「当然、俺も残ります。辞める気なんてありません」

 

岡田が後に続いた。

 

 

 

「今ここで決めるのはやめよう。他の奴が決めづらくなる」

 

「そうだな」

 

「待ってください。岡田が残ると言う事は後は俺だけじゃないですか。

 兄弟が辞めるとは思えない」

 

「そうとは言えないよ。少なくとも和也と達也は迷ってる」

 

「そうなの?」

 

「うん。はっきり言って命をかけてやると言うのがピンとこない」

 

「まあ若い奴はそうなるだろうな」

 

 

俺は同じ年の岡田に聞いてみた。

 

「岡田はどうしてそう迷いなく言い切れるの?」

 

「この仕事が好きだし、夢が叶うのを見てみたいと思う。

 大野はこの仕事は嫌いなのか?」

 

「好きだよ」

 

「だったら、それ以上の理由なんているのか?」

 

岡田の言葉にハッとなった。

 

「好き」以上の理由なんてあるのだろうか。

 

 

「さあ、今日はここまでだ。まだ結論は出さなくて良い。

 少しゆっくり考えてみると良いよ。一生の事になるかもしれないからね」

 

 

一生のこと。もう少し慎重に考えてみよう。