2026年7月5日 大阪日日新聞
⼤阪市⻄成区にある寺院「智崇院別院」 の境内に、⼀⾵変わった温かいパワースポットが⽣まれようとしている。⽝猫の保護活動を⾏う「Shu-Shu (シュシュ)」の代表、露原綾さんが今夏、オープンさせる保護猫・保護⽝シェルター「スプーン」だ。 この場所が⽬指すのは、⾏き場を失った動物たちを救うだけでなく、不登校や孤独、⽣きづらさを抱える⼈たちがふらっと⽴ち寄れる居場所になることだ。原点には不登校になった娘と歩んだ6年間の経験がある。
保護犬猫シェルター「スプーン」 命と孤独を救う居場所へ
不登校めぐる周囲の冷たい視線の中で
活動の原点は6年前。当時、中学校に⼊学したばかりの露原さんの娘 ・ 芹華 (せりか)さんが不登校になったことがきっ かけだった。

犬猫の保護活動を行っている露原さん=智崇院別院 (大阪市西成区)
「(娘は)私に似てミスが許せない完璧主義な⼀⾯があって、知らず知らずのうちに⾃分を追い詰めていたのかもしれません」
当時は今ほど不登校への理解がなく、周囲から〝ママ友〟もいなくなった。学校側の協⼒も⼗分に得られない中、⺟娘は社会から孤⽴してしまう。
だが、露原さんは「いろんな経験をさせてあげることが⼀番」と芹華さんをさまざまな場所へ連れ出した。好きなアイドルがいれば同じ熱量で寄り添った。そんな⽇々の中で出会ったのが、地元で⾏われていた地域猫のエサやりだった。
最初は週に1回、決まった時間に地域の猫にエサをやるという⼩さな⼀歩からだった。しかし、この出会いが⺟娘の運命を⼤きく変えていく。
「自分にもできることがある」
エサやりから⺟娘の保護活動は徐々に広がっていき、いつしか猫を拾った地域住⺠から露原さんの元へ連絡が⼊るようになる。このため、多い時には⾃宅に10匹もの保護猫がひしめき合っていた。
露原さんに保護された子猫たち
やがて、⽝猫の繁殖業者が適切な管理や経営ができなくなり、飼育する多数の動物が不衛⽣な環境に放置される「ブリーダ崩壊」による
レスキュー依頼も、露原さんの元に舞い込むようになった。
ただ、⽣まれたばかりの猫を預かれば2時間おきにミルクを与えなければならない。
「娘と『夜中担当』と『昼間担当』に分かれて、⼩さな命を繋ぎ⽌める⽇々でした」(露原さん)
保護猫の世話で親⼦は⼤変な⽇々を送っていたが、ある⽇、⾃信を失いかけていた芹華さんに変化が訪れる。
以前は露原さんが芹華さんの苦⼿な部分をフォローしていたが、ある⽇、芹華さんは「⾃分で全部やってみる」と宣⾔。部屋に猫を連れ、⼀⼈でミルクやりから排せつの処理などの世話を引き受けた。
「この⼦たちには⾃分がついていないといけない」「⾃分にもできることがある」――。そんな実感が、少しずつ芹華さんの⾃信につながっていた。
芹華さんの変化は、周囲の⽬にも明らかだった。保護ネコの譲渡を⾏うマルシェに参加した際は、他⼈と話すことが苦⼿だった芹華さんが、来場者の質問に堂々と答え始めた。「⼈との間に猫が⼊るだけで、驚くほど⼼が通じ合うようになるんです」と露原さんは振り返る。
その後も⼤学受験の壁にぶつかるなど岐路に⽴つたび、芹華さんを前を向かせたのは猫たちの存在だった。今では露原さんの最も頼もしい相棒として共に保護活動を続けている。
孤独な人々に「必要とされる喜び」を
露原さんはこうした経験から、動物が持つ癒やしと⼈を育てる⼒があると確信。
保護猫活動と福祉を掛け合わせた「就労継続⽀援B型事業所」を⽴ち上げた。そこでも猫の存在が利⽤者の変化を後押しした。
当初は「疲れた」「⾏きたくない」と事業所に通うのをためらう利⽤者もいたが、「作業の合間にネコちゃんに会える」「⾃分で作ったグッズが猫たちのエサ代になる」と利⽤者たちの背中を押す。休憩時間に職員と利⽤者が猫を中⼼にして会話を交わし、事業所の雰囲気もみるみる温かくなっていった。
保護猫へのミルクやり。生まれたばかりの子猫には2時間おきにミルクをあげる
「おじいちゃんもおばあちゃんも、若い⼦も、みんな⼼のどこかで 『誰かに必要とされたい』 と思っている。猫の世話を通じて 『私がこの⼦を⽀えている』と思えること。その実感が明⽇を⽣きる活⼒になるんです」(露原さん)
もちろん、活動は良いことばかりではない。「5年⽬を迎えた頃、どれだけ⼿を尽くしても救えない命に直⾯し、あまりにもショックで活動を辞めたいと思った」と露原さん。そんなに落ち込むなら辞めればいい」と周囲からも⾔われたが、それを引き⽌めたのは芹華さんだった。
「やっぱり猫たちがかわいそうだから、もう1回やろうよ」
悲しみを乗り越え、命の尊さを理解し、強くなった芹華さんの⾔葉に 「逆に励まされた」と露原さん。
今夏オープンする「スプーン」
孤⽴しない温かい社会を⽬指し、露原さんがまもなく「智崇院別院」(⼤阪市⻄成区)の境内にオープンさせる
保護シェルター。名称の「スプーン」は芹華さんが、⼩さな命をすくう思いや孤⽴した⼈々を〝すくう(救う)〟という意味で名付けた。
高校卒業時の芹華さん(右)。母娘で保護活動に取り組んでいる
「⽝や猫の命をつなぐ場所だけでなく、誰もがふらっと⽴ち寄れて元気をもらえる『
パワースポット』にしたい。SOSを抱えている⼈が、気軽に集まれる場所になれば」
⼈間の⾝勝⼿な都合で「モノ」のように扱われ、捨てられてしまった⽝猫の残酷な現状に胸を痛めながらも、動物と⼈がつながる場を広げたいと考える露原さん。
将来的には、このシェルターのモデルをさらに広げ、フリースクールや⽼⼈ホーム、さらには⼩学校の教室の隣など、社会のあらゆる場所に保護⽝猫を通じた居場所を作りたいという構想がある。
「⼝にして、あきめなければ思いは絶対にかなう。やってみてダメならその時考えればいい。失敗はありません」
保護活動の⼀⽅で、就労⽀援事業所や弁当店、農園、美容サロンなども展開する露原さん。いずれも従業員の「やりたい」という思いから働き⼝をつくるために⽴ち上げたものだ。⾃らの収⼊を削りながら、⽬の前の従業員や傷ついた⽝猫に向き合い続ける。
1本のスプーンがすくい上げるのは、⽝猫の⼩さな命の灯⽕と、⼈々の明⽇を⽣きる希望だ。露原さん親⼦の挑戦はこの夏、新たな⼀歩を踏み出す。
■Shu-Shuでは、保護⽝・保護猫活動やシェルター運営を⽀える寄付や⽀援を受け付けている。
問い合わせは露原さん(電話 080-4579-1971)。