2025年10月28日 ESSE online
国土交通省「空家等現状について」によると、あき家はここ20年で1.8倍も増えており、2025年時点では約820万戸にも達します。グループ合計で18万件の遺品整理の実績をもつ「遺品整理プロスタッフ」の代表取締役社長・石田毅さんとスタッフの田中さんは、これまで数々のあき家を片付けてきました。今回は石田さんと田中さんに、あき家問題の現状と、飼い主を失ったペットたちの現実に焦点を当て、お話を伺いました。
遺品整理の専門業者が現場で見た「ペット」のリアル(※画像はイメージです)((C)ESSEonline)
住人が亡くなり、残された1匹の犬…
住人がいなくなり、静かになった家…。石田さんが遺品整理の依頼を受けて見積もりに訪れると、人の姿はなく、代わりにくりっとした目が印象的な一匹の犬が、不安げに立ちすくんでいました。
そのときのことを「すごくかわいい顔をしたワンちゃんで、見た瞬間に胸が締めつけられるような切ない気持ちになった」と、石田さんは振り返ります。
遺品整理の依頼主は、故人の親戚でした。飼いたい気持ちはあったものの、ペット不可のマンションに住んでいるため、犬を飼うことはかなわない…。さらに、中型犬ということもあり、知り合いにあたってはいるものの、引き取り手はなかなか現れませんでした。
「僕にも『だれか探してくれないか』とおっしゃっていたのですが、なかなか見つからなくて…。うちでも犬を飼っているので、他人事とは思えませんでした」(石田さん、以下同)
見積もりのために訪れてから、その犬のことがずっと気になっていた石田さん。ですが、どうすることもできず、気がづけば2、3週間が経っていました。
●今でも忘れられないあの日のこと
そして、迎えた作業当日。聞けば、依頼主は遠方に住んでいて、仕事の都合で2、3日に1度、ごはんをあげに来るのがやっとだったそうです。
作業期間中は自分たちで世話をすることができても、片付けが終わればもうその場所を訪れることはない。そう考えた石田さんは、犬の新しい飼い主を探すために奔走しましたが、結局、願いはかないませんでした。
その後、犬がどうなったのかを知る由もなく、「自分が犬を連れて帰るという選択肢もあったのではないか…?」と、ふと思い出して今でも後悔することがあるそう。
「動物を飼うということは、最後まで一緒にいられるか、自分がいなくなってしまったあとのことも考えておくくらい、覚悟と準備がいる。“孤独死”の問題もありますが、飼い主亡きあとの“ペット”の問題もあるということを改めて感じました」
どうにかしてあげたかったけれど、あのときはどうすることもできなかった…。同じ出来事に遭遇したときの考えてはいるものの、幸か不幸か、それ以来、遺品整理の現場で、同じように残された動物たちに出合うことは今のところないそうです。
現場で見つけた「猫」
同じようにスタッフの田中さんも、“ペット”にまつわる切ない現場に何度か立ち会ったことがあります。いちばん心に残っているというのが、一軒家の現場で発見された、猫と思われる3体の白骨が発見されたことだそうです。
「多分、飼い主さんが亡くなってしまったあと、エサも水も得られず、力つきてしまったのだと思います…。数日なら動物も耐えられるかもしれませんが、数週間も発見されなければ、最悪の事態になりかねません。もっと早く発見できていれば…と、今でも悔やまれます」(田中さん、以下同)
その経験もあり、じつは田中さん、別の現場で見つけた4匹の子猫を全匹引き取ったこともあるそう。
「片付けをしていた現場でたまたま4匹の子猫に遭遇したんですね。あたりを見渡したところ、親猫らしき姿は見当たらず…。飼い主を探したものの、なかなか見つからなかったため、過去の経験もあり、思いきってうちに迎え入れることにしました」
当時は、200gほどにやせていた子猫たち…。しかし、田中さんの家で愛情たっぷりに育てられ、今では7kgにまで成長し、元気に暮らしているそうです。
●自分亡きあとのことも考えることが飼い主の務め
このケースでは田中さんが引き受けましたが、毎回飼ってあげることもできません。そのため、現在は、地元の保護犬・保護猫団体と連携し、遺品整理の現場で保護された動物たちの新しい飼い主探しをサポートしています。
「高齢者やひとり暮らしで、動物を飼う方も多いかと思います。ですが、その場合はやはり、できるだけ毎日どうしているか、だれかと連絡がとれるようにしておいてもらうと、ペットのためにも安心かと思います」
最近は、犬や猫のために遺言を残したり、ペット信託を利用することも可能になっています。各自治体の動物愛護センターのホームページを確認したり、弁護士や法律相談窓口に相談してみるのもよいでしょう。もはやペットは大事な家族。大袈裟だと思わずに準備しておくのも飼い主の務めなのではないでしょうか。
※ 実際の体験をもとに、依頼者および遺品整理業者の許諾を得て制作しています。個人情報保護の観点から、登場人物や一部の状況は実際の事例を損なわない範囲で変更しています
