「もう少し早く動けなかったのか」愛護団体宅で猫百匹超が死亡した悲劇 | トピックス

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2025年10月26日 読売新聞オンライン

 

 熊本市北区の住宅で6月、百数十匹の猫が死骸で見つかり、飼育していた動物愛護団体会員の女が動物愛護法違反(虐待)容疑で逮捕された。虐待を疑う情報は昨年7月には寄せられていたが、市が立ち入り調査を行ったのはそれから約1年後だった。同様の事件を未然に防ぐため、県は登録団体について、現地調査などを厳格化させることを検討している。

 

熊本市などの立ち入り調査で保護された猫(読売新聞)

 

  【写真】祭壇の前で花を手向け、猫たちの冥福を祈る参列者

「1週間早ければ生きていたのでは」

 8月10日、女が所属していた団体とは別の県内4愛護団体の共同開催で、死んだ猫たちの慰霊祭が営まれた。4団体は住宅から生存している猫を保護したり、死骸を回収したりした。

 

 「1週間早ければ、この子は生きてここを出られたのではないかというご遺体もありました」。代表の一人はそう言葉を絞り出した。女に猫を預けていた人も含めて約150人が花を手向け、犠牲になった猫の冥福を祈った。

 

 県警は13匹を衰弱死させたり、別の12匹を不衛生な環境で飼育したりする虐待を加えたとして、9月18日に女を逮捕。その後、熊本地検は処分保留で釈放し、任意で捜査が続けられている。

現地確認300件、対応する職員は4人

 付近住民は昨年夏には、この住宅周辺の異常に気づいていた。

 

 一帯は児童の通学路になっていたが、複数の住民は読売新聞の取材に「家から漂う臭いがひどく、子どもたちが通れなくなっていた」と証言。中には、「昨年11月に市に相談した」と話す住人もいた。

 

 熊本市動物愛護センターによると、職員は昨年7月には現地を訪ねていたが、女は不在で事情は聞けなかった。再訪問や応対を求める文書の投函で接触を図ろうとしたが会えないまま、同11月には「(住宅)敷地内の車内に子猫が閉じ込められている」という通報を受けた。その際は、熱中症に陥るような緊急性は高くないと判断。後日の訪問で、女は「猫1匹を飼っており、子猫はいない」と話したため、室内を確認するなどの対応は取らなかったという。

 

 同センターへの年間の相談件数約1500件のうち、現地確認を行うのは約300件に上る。しかし、主に対応する職員は4人で手が回らないという。

 

 現地に行っても不法侵入との指摘を受けたり、相談内容を当事者に伝えたことで怒りを買ったりする可能性もある。滝本勉所長は「虐待を見逃したくないが、裏付ける確証がない限り、屋内に立ち入るのは難しい」と語る。

「基準があいまいで行政も踏み込みづらい」

 女が所属していた動物愛護団体は、県の「登録譲受対象者」だった。県動物愛護センター(宇城市)や県内各地の保健所で保護された犬や猫を引き取り、新しい飼い主が見つかるまでの世話などを担っていた。

 

 県による新規登録者への審査では、飼養場所を直接確認するものの、以降は年に1回、譲渡頭数などの報告書類を確認するにとどまっている。

 

 事件発覚後、県や熊本市は、同種団体の実態調査を行い、問題はないことを確認した。同センターの長尾ゆかり所長は「二度と同様の問題を起こさないよう、より踏み込んだ対応が必要」とし、飼養場所の定期的な現地調査、譲り受けた犬猫の成育場所の届け出の厳格化などを検討している。

 

 生存していた猫の治療にあたった竜之介動物病院(熊本市中央区)の徳田竜之介院長は「動物の虐待は基準があいまいで、行政も踏み込みづらい」とする。愛護団体については飼養管理への理解度や実際の飼養状況には幅があるとし、「改善のためには正しい知識をもった(愛玩)動物看護師らが指導にあたることが望ましい」と指摘した。

悲劇を繰り返さないためには――取材後記

 「大事な猫を預けて死なせてしまった。一生後悔し続けると思う」。逮捕された女に猫を託した女性が取材中に浮かべた悲痛な表情が忘れられない。

 

 関係機関が適切なタイミングで介入できていたら、事態はここまで悪化しなかった可能性もある。人と動物が幸せに共生できる社会を目指すためには、まずは事件がなぜ起きたのかを究明しなければならない。

 

 動物の命に対する責任を一人一人が持ち、悲劇を繰り返さないための仕組みを早く構築していく必要がある。(高城琴音)