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身近で起こっている動物に関する事件や情報の発信blogです。

2025年9月15日 FRau

 

2025年3月、警視庁は、2024年1年間に動物虐待検挙数が160件あり、182人が逮捕・書類送検されたと発表した。2023年よりも減少はしたものの、2020年以降、高止まりをしている状態だ。

 

生き地獄のような繁殖現場から救助されたぺろちゃん。写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva(現代ビジネス)

 

【写真】糞尿まみれの環境で見つかった頃のペロちゃんと今の姿

 

「この数値は検挙や逮捕・書類送検されたもの……、虐待は見えないところで行われ、隠されてしまうことが多いので、この数値は氷山の一角といえるでしょう。しかも、現在の動物虐待罪はあまりに軽く、矛盾を感じる点も少なくありません」 

 

そう語るのは、長野県松本市の繁殖事業者の事件など、動物虐待事案の告発や、動物福祉向上に関する普及啓発活動を積極的に行い、『公益財団法人動物環境・福祉協会Eva』の主宰でもある俳優の杉本彩さんだ。 

 

Evaでは、9月20日〜26日の動物愛護週間に毎年テーマを決めて発信をしている。今年は、動物虐待の問題について伝えていこうと思った杉本さんの想いを、ブリーダーの多頭飼育崩壊で地獄の現場で生き抜いた「ぺろちゃん」の出来事とともに、寄稿いただいた。 

 

以下より、杉本彩さんの寄稿。

10年前、批判されたことも今は常識に変わった

毎年私たちEvaは、環境省が定める9月20日〜9月26日の「動物愛護週間」に向けて、啓発ポスターとチラシを作成している。設立2年目の2015年から続けているので、今年でかれこれ11回目だ。毎年、今回はどのようなテーマにしようかと、その時の動物情勢や事件を参考に、私たちがその時訴えていきたいものをテーマにする。 

 

今思うと10年前、世間では「ペットを大切に」とか「動物を幸せに」といった耳障りのいいフレーズが多かった。だが私たちの思いは、ではなぜペットが大切にされないのか、なぜ幸せになれないのか、という根っこの問題について広く知っていただきその原因について考えてほしいとつねづね思っていた。

 

私は、Evaを立ち上げた当初から、大量生産・大量流通で成り立つ生体展示販売、そして仔犬仔猫を衝動買いして、「世話が大変だ」「こんな筈じゃなかった」「飽きた」を理由に、飼育放棄に繋がるペット流通問題に疑問を感じていた。もちろんペットショップから購入しても、家族として愛情を注ぎきちんと飼育する方もいるが、そうでない人も一定数いる。そういったことから、2015年に初めて作ったポスターとチラシは、臆せず「命をお金で買わない。」をキャッチコピーにした。覚悟の上ではあったが、案の上、この時ほど「過激な動物愛護団体だ」と世間から叩かれたことはない。 

 

だが、今はどうだろう? 各地の動物愛護の講演会に伺った先々で、また当協会のお問い合わせフォームで、SNSのコメント欄など様々なところで、「どうしたら生体展示販売をなくすことができますか?」「私に出来ることは何がありますか」と、多くの方が2015年当時あれだけ批判を受けた「命をお金で買わない。」ということに共感している。 

 

まさに、「啓発は一日にして成らず」、長くかかるがこれが啓発活動なのだとつくづく思う。

今年は、動物虐待の問題をいっしょに考えたい

そして、今年の啓発ポスターとチラシのテーマは、「声なき命にあなたの声を」。 

 

2025年のポスター。写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva(現代ビジネス)

 

「動物虐待」という言葉であなたはどんなことを連想するだろうか。 

 

多くの方は、殴ったり刺したり溺れさせたりなど、殺したりむやみやたらに傷付けることを思い浮かべるだろう。だがそれだけではない。例えば、人知れぬ場所に、自らの意思で逃げることも出来ず幽閉されたとしたら……。 

 

その動物の末路は想像に難くない、これも十分「動物虐待」と言い切れる。最近は、一般の人の多頭飼育崩壊やブリーダー崩壊、動物愛護団体崩壊などで、こういった「動物虐待」が増えている。

この世の地獄を生き抜いたぺろちゃん

その一例をご紹介したい。 
 
穏やかな表情を見せるシュナックス(ミニチュアシュナウザーとダックスフンドのミックス犬)のぺろちゃんは、多頭飼育崩壊現場から保護され2025年3月頭にボランティアの元に来た。 
 
穏やかでかわいらしい表情をみせるぺろちゃん。写真提供/公益財団法人動物環境・福祉協会Eva(現代ビジネス)
 
多頭飼育崩壊を起こしたのは、ダックスフントのミックス犬の元ブリーダーだ。崩壊現場には、形が残っている遺体が10体以上。大量のうじ虫にびっしり覆われた原型を留めないもの、既に骨となった亡骸は全部で50体くらいだったという。 
 
堆積した糞尿は40センチもあったそうだ。昨年2024年の酷暑で相当数の犬が命を落とし、その後も保護される数ヵ月の間、次々と動かなくなっていく仲間を前に、ぺろちゃんは猛烈な腐敗臭と絶望、そして極限状態の空腹と渇きの地獄を奇跡的に生き長らえた。 
 
崩壊現場の100頭近くいた中で生き残った犬はたった37頭。この状態を動物虐待と言わずして何と言うのだろう。
 
さらに悲劇なのは、そんな過酷な環境のなか、ぺろちゃんは繁殖犬として妊娠させられていた。現場から引き出されたぺろちゃんをボランティアが引き取ったときには、既に胎児の心音は弱く、最終的におなかにいた2匹の赤ちゃんは死産した。この施設から引き出されなければ、間違いなくぺろちゃんも命を落としていただろう。 
 
保護されたぺろちゃんは、歯が1本もなく、目には角膜腫瘍、乳腺腫瘍が数ヵ所、現在も治療中だ。年齢は不明だが、目の状態から高齢ではないかと言われている。保護されるまでの間、仲間が次々に衰弱し倒れ、息絶えていく地獄の環境で、本当によく生き抜いていてくれたと思う。

生ける屍のように、それが動物虐待

動物虐待罪は3つある。 
 
1. 殺傷罪(法第44条第1項):みだりに殺したり傷つけること。 
 
2. 虐待罪(法第44条第2項):みだりに身体に外傷を生ずるおそれのある暴行を加える、またはそのおそれのある行為をさせる、餌や水を与えなかったり、酷使する等により衰弱させるなどの虐待を行うこと。 
 
3. 遺棄罪(法第44条第3項):動物を捨てたり、置き去りにすること。 
 
動物虐待通報のほとんどが、不適正飼養といわれる「第2項の虐待罪」に該当するもので、全体の7割強を占める。給餌給水を怠る、病気や怪我をしても治療もせず放置する、暴力を振るう、真夏の酷暑でも冬の極寒でも、外で繋ぎ飼いをし、拘束するなどの行為だ。 
 
不適切な飼育も動物虐待のひとつだ。photo/iStock(現代ビジネス)
 
加えて不適正飼養は、いっときではなく長きに渡り、まさに真綿で首を絞められるような苦痛が続き、その果てには遅かれ早かれ死が訪れる。
 

快適な環境も、おなかいっぱいに満たされることも、安心感も充足感も一度たりとも経験せず、誰にも看取られず死んだことにも気づかれず、泣いてくれる人も荼毘に伏されることもない命。動物は、その環境にあらがうことも出来ず、誰を恨むことも嘆くこともなく力尽き息絶える。 

 

毎度動物に対する人間の卑劣極まりない行為を聞くと、またかと心の底から反吐が出る。

常態化する動物虐待事件

動物虐待事件は、繁殖業者だけではない。ペットショップのバックヤードでも、動物カフェでも起きる。さらには、善良な動物保護活動を謳いつつ、裏では保護動物を適正に飼養せず虐待環境下に置く動物愛護団体もいるのだ。 
 
そして一般飼い主もしかり「昔からこの飼い方だから」とか「うちの犬にとやかく言われる筋合いはない」と開き直る。そして最後の砦と行政に相談しても、改善させないまま動物が放置される不適正飼養が後を絶たない。 
 
そうした数々の通報を受け、当協会で聞き取りを行い証拠を揃え、時間と手間と費用をかけ、警察に刑事告発をすることも多々あるが、ひとつとして納得いく処分がない、というのが現実だ。最近の処分事例はこうだ(図を参照)。
 
写真:FRaU(現代ビジネス)

虐待罪の厳罰化を進めたい

全国各地で起きている動物虐待事件のそのほとんどが不適正飼養であるにもかかわらず、現状の「1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」のままでは、このように、非常に軽微な量刑の範囲内で判断され続けることになり、類似事案の抑止にもならない。 

 

私たちEvaが訴え、傍聴を続け、メディアなどでも問題点を報告し続けてきた長野県松本市の事件の処分結果には、多くの方々から司法の判断について異議を唱える声が多数寄せられた。

 

当協会では、2024年7月から動物虐待罪「1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」を「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」に引き上げる請願署名を集めている。みなさまの重い心の一筆を国に届けたいと思っている。 

 

「声なき命にあなたの声を」

 

杉本 彩(女優 公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長)