アイドッグ・レスキュー隊 | トピックス

トピックス

身近で起こっている動物に関する事件や情報の発信blogです。

2025年8月17日 南海日日新聞

 

 2024年に鹿児島県の奄美大島と徳之島で交通事故死(ロードキル)とされた国の特別天然記念物アマミノクロウサギの数は計163匹だった。森林伐採の減少や外来種対策などにより、生息数や生息域が回復してきている一方、ロードキル件数も増加傾向にある。交通事故に遭ったクロウサギのその後を追った。                                                   

 大和村にある環境省奄美野生生物保護センターでは、けがをしているクロウサギの情報提供を受け付けている。生きている場合は協力関係にある動物病院に連絡、搬送する。死んでいる場合は死骸を回収後、職員や協力者が解剖し死因の解明につなげている。  

 

奄美いんまや動物病院で治療中のアマミノクロウサギと伊藤圭子獣医師=7月24日、鹿児島県龍郷町(奄美の南海日日新聞)

 

◆クロウサギ治療中

  龍郷町の奄美いんまや動物病院では、7月24日現在、今年度に島内で保護されたアマミノクロウサギ2匹の治療が行われている。伊藤圭子獣医師(48)によると、1匹は今年4月に瀬戸内町で交通事故に遭い、骨盤が折れ、背中の皮膚が広くめくれてしまった状態で運ばれてきた。もう1匹は今年5月に大和村でハブにかまれ、目の上や唇から出血し、顔も腫れていた。ハブによる傷とは別に、顎の骨も折れていた。

 

  2匹とも治療により一命を取り留めたが、野生復帰は難しいという。他にもう1匹、3年半ほど前から治療が続けられている。 

 

 同院では、19年春の開業以降、クロウサギをはじめ野生動物の救護活動を行っている。24年度は過去最多の103件の救護があり、約半数を野生に戻した。伊藤獣医師は「野生復帰のためには早期発見、早期通報が欠かせない。生息数の回復とともに、けがをした個体発見時の通報体制も確立してきている」と話す。

 

◆「細胞のかけらでも生かしたい」

  一方、動物病院に運ばれてきたクロウサギの中には死んでしまう個体もいる。伊藤獣医師によると、死後数時間であれば精子や卵子、血液などの採取が可能で「細胞のかけらであろうと生かしたい。無駄死にさせたくない」と採取して大学に送っているという。

 

  治療時には傷病個体にどういう力が加わったのかなど、けがをした時の状況が分かることも多いそうだが、知見を共有する場がなく「獣医師もロードキル対策の会議などに呼んでほしい」とも話す。  

 

◆施設へ移る道も

  動物病院での治療後は、動物園や施設に移される道がある。環境省や鹿児島市(平川動物公園)、アマミノクロウサギ保護研究施設「QuruGuru(くるぐる)」を運営する大和村、奄美大島・徳之島の動物病院など官民6機関は今年4月、クロウサギの救護や野生復帰に向けたリハビリ、生体を活用した普及啓発活動などで連携する協定を結び、役割を明文化した。  

 

◆発見時は通報を

  けがをした動物を見つけた場合にはどうすればよいのか。伊藤獣医師によると、野生生物は人間を怖がるため「自分で飼ったり手当てをしたりするのは絶対に駄目」だという。手を出してはいけない状態の可能性もあり、両島の環境省や動物病院に連絡し、指示を仰ぐことを勧められた。