2025年6月22日 産経新聞
飼育放棄や多頭飼育の崩壊などで保護される犬や猫と新たな飼い主との出会いを取り持つ譲渡会に、「なぜこの会社が?」と思えるような大手企業が取り組んでいる。自社が扱う製品やサービスの収益拡大につながるプロジェクトと位置付け、「人間の都合で命を奪われる犬や猫をなくす」という社会貢献活動との「二兎」を追い、「二兎を得る」成果を挙げつつある。
譲渡会の会場近くではパナソニックの除菌脱臭機「ジアイーノ」(左)や犬用バリカンなど関連製品も展示された=4月12日、東京・有明(株式会社 産経デジタル)
■「大きな企業が開く譲渡会、安心」
「初めて来ましたが、猫だけでなく(別の時間帯に開かれる)犬の譲渡会にも参加します。『いい子』がいればぜひ譲り受けたい」
4月中旬、パナソニックが東京・有明で開いた保護犬猫譲渡会に、10代後半の娘と一緒に参加した40代の女性は声を弾ませた。また、2人連れで訪れた40代の女性は「以前にこの譲渡会で自宅に迎えた犬を病気で亡くしました。悲しみは癒えていないので、すぐには無理だけれど、新たな出会いがあればと訪れた」と思いを口にし、「大きな企業が開く譲渡会には安心感がある」と話した。
2日間にわたったこの譲渡会には計1794人が参加し、14の動物保護団体が世話をする計200匹余りの犬・猫と対面。同社によると、5月下旬までで45件の譲渡の申し込みにつなっがたという。
■社員の熱意が会社を動かす
日本を代表する電機メーカーが、なぜ保護犬や猫の譲渡会に力を注ぐのか。「動物たちの命を救いたい」「ペットを飼っている人たちをもっと幸せにする仕事をしたい」。こんな思いを抱いていた犬好きの社員、田頭裕子さん(44)の問題意識と行動力が組織を動かした。
田頭さんは、担当する除菌脱臭機「ジアイーノ」の購入者にはペット愛好家が多いというデータに着目。ペット関連のメディアに「飛び込み営業」の形で知恵を借りつつ、動物保護団体を支援する活動を通じて、製品の認知度向上と販売拡大につなげる企画を立てた。上司のゴーサインを得て、プロジェクトは2021年にスタートした。
まず、除菌脱臭機を国内各地の動物保護団体に寄付し、犬と猫の体臭や排泄物の臭い対策に活用してもらう活動を展開。同時にSNSで募金キャンペーンを繰り広げ、投稿への「いいね」やリポストなどの反応が1件あるごとに、「ワンニャン」の語呂合わせで12円をパナソニックが保護団体に寄付すると呼びかけたところ、寄付額が計120万円に達する反響を呼んだ。
そうした中、譲渡会を巡って保護団体から「雨風をしのげ、空調が整う会場を借りられない」「人を集めるのが難しい」といった悩みが寄せられた。パナソニックのチーム内から「それなら自分たちで譲渡会を開こう。ブランド力も利用できないか」との声が上がり、自社のイベント会場を使って2022年に譲渡会がスタート。今年4月の開催で通算6回(東京4回、大阪2回)を数えた。
パナソニックの社内カンパニー「空質空調社」で家電営業部企画課主幹を務める田頭さんは、動物保護の活動を「いつかは会社としてのアクションにつなげよう」と胸に秘めていた。願いを実現した今、「どこに行けば譲渡会に参加できるのか分からない人たちの背中を押し、保護犬や保護猫の支援が身近なテーマになったかと思うと、本当に良かった」と振り返る。
その上で「異業種のペット関連企業ともコラボレーションするなどして、活動の輪を広げたい」と視線を先に向ける。
■年々減少も…続く殺処分
環境省のまとめによると、全国の動物愛護センターや保健所に引き取られ、殺処分された犬と猫は推計で1974年度に計122万匹余り(犬115万9000匹、猫6万3000匹)にのぼったが、年々右肩下がりで減り続け、2023年度には計9017匹(犬2118匹、猫6899匹)と初めて1万匹を下回った。1973年に動物愛護管理法が制定され、その後も数度にわたる改正で規制や罰則が強化された効果に加え、動物保護団体の努力も大きな要因とされる。
動物愛護センターなどに引き取られた後、新たな飼い主に譲渡されたり、元の飼い主に返還されたりした犬や猫は、23年度には3万5764匹と全体(4万4576匹)の約8割に達した。一方で、残りの約2割は依然として殺処分されているのが現状だ。
■「循環型サイクル」目指す島忠
ニトリホールディングス(HD)傘下の島忠は、パナソニックの取り組みよりも早く、ホームセンター「ホームズ」の店舗で保護動物の譲渡会を定期開催してきた。「当社の顧客に保護動物の存在に気づいてもらい、地域の保護動物をゼロにしたい」との思いからだという。
島忠は、ペット用品の担当バイヤーがペット関連のイベントで譲渡会を見かけたことをきっかけに、2017年に自社店舗で初めて開催。保護動物が地域の社会問題になっている現状を知り、翌18年から定期開催に踏み切った。現在、首都圏と兵庫県内の計24店舗で行い、譲渡数は年間約1000匹以上にのぼる。
来店者に保護犬・猫を新たな「家族」として譲り受けてもらえばもらうほど、保護団体は自らの施設で扱える数に余裕が生まれる。島忠にとっては、ペット愛好家が地域内に増えることでペット用品の売り上げ拡大につながる。「こうした循環型のサイクルを想定している」(同社広報)という。
動物保護団体の関係者は企業の支援を歓迎する一方で、「保護が必要な犬、猫は後を絶たず、次から次へといった状態。全てを引き受けるのは難しい」と本音も漏らす。飼育放棄や多頭飼育の崩壊を防ぐための対策の強化とともに、譲渡会など引き受け手とのマッチングの機会拡大や認知度の一層の向上が課題となっている。(村山雅弥)