2025年6月15日 FRaU
熊本で悲惨な事件が判明した。猫の保護活動を続ける団体に所属する女性の自宅からなんと約150体にも及ぶ猫の死骸が見つかった。6月2日、複数の保護団体と県警立ち会いのもと、熊本市動物愛護センターの調査と猫の亡骸の回収を行った。室内は、ゴミと猫の糞尿だらけで、中にはキャリーケースの中に入ったままの亡骸もあったという。6月10日、熊本市は女性を動物虐待による動物愛護法違反の疑いで熊本県警に刑事告発した。
認知されてきた「保護猫」。しかし、人気に伴い「保護猫詐欺ビジネス」も横行し始めている。photo/iStock(現代ビジネス)
「犬や猫の保護活動をしている団体の多くは、きちんと熱心に活動されています。今回熊本で起きた事例に関しては調査中で詳しいことがすべて把握できていませんが、保護をしていた人、団体が自分たちが飼育できる範囲を超えて多頭飼育崩壊を起こす『アニマルホーダー』の事例、飼育放棄や悪環境での飼育で命を奪ってしまう事例も各地で起こっています。この問題については他の事例も含めて、いずれじっくりとお伝えしたいと思っています。
こういった動物保護のアニマルホーダーとともに、問題となっているのが、動物たちを利用した詐欺ビジネスです。保護猫や保護犬が話題になる中、そういった動物たちを利用した詐欺が横行しているのです」というのは、『公益財団法人動物環境・福祉協会Eva』 の主宰でもある俳優の杉本彩さんだ。
長野県松本市の繁殖事業者の事件など、動物虐待事案の告発や、動物福祉向上に関する普及啓発活動を積極的に行う杉本さんが自ら執筆する連載の第5回では、「保護猫を利用した新たな里親詐欺」について寄稿いただく。
以下より、杉本彩さんの原稿です。
「保護猫」人気を利用した悪質詐欺ビジネス
猫や犬との出会いは、人生を豊かに彩ってくれるかけがえのないものだ。近年はSNSやメディアの影響もあり、特に猫の魅力に注目が集まるようになった。さらに、保護猫を迎えるという選択肢も広く知られるようになり、多くの命が新たな家族と出会うチャンスを得ている。一頭でも多くの保護猫が幸せになることは、人と動物が幸せに共生できる社会を目指す上で、とても大切なことだ。
しかし、残念ながらその「注目」や「善意」に便乗する悪質な行為も増加している。そのひとつが、保護活動や支援団体の存在を悪用した、新たな形の「里親詐欺」だ。
最近、ある保護猫支援団体の事務所住所が、まったく無関係な詐欺行為に利用されるという被害が報告された。
詐欺犯はSNS上に「猫舎閉鎖のため、純血種の子猫を無償で譲渡します」といった投稿を掲載。まるで信頼できる団体を装って、「餌代や保険料の名目で数千円をPayPayで送金すれば譲渡できる」と誘導し、お金をだまし取る、という手法だ。今回のケースで詐欺情報として使われたのは、人気猫種の「ラグドール」だった。
さらに、引き取り場所として、まったくもって無関係な団体の事務所住所を勝手に指定。振り込んだ人が実際に訪れても、猫はおらず、当然お金も戻ってはこない……。被害に遭われた方にとっては大変ショックであり、住所を利用された保護団体にとっても、まったく無関係な詐欺に巻き込まれることで信頼を損なわれ、活動に支障をきたすことになった深刻な事案だった。
こうした詐欺にはいくつかの共通点があった。「純血種が無料」「即日譲渡」「SNSだけのやりとり」「匿名決済」……。あまりにも“手軽すぎる”話は、まず疑ってかかるべきだ。
信頼できる譲渡の流れを知ってほしい
本来、信頼できる保護団体は、猫の命を軽んじるような「簡単な譲渡」は絶対に行わない。飼育を希望する方との丁寧なやりとりと慎重な確認を経て、猫と人間の双方にとって幸せなマッチングを目指している。
そのために必要なのが、「事前の確認」や「お宅訪問」だ。
事前の面談では、さまざまな譲渡条件について確認される。定期的な健康診断や、病気が疑われる又は病気になった時に、適切な医療にかけることが出来るか、身分証明書の提示が必要となる。また、ペット可住宅に住んでいて完全室内飼育が可能かどうか。家族全員が猫を迎えることに賛成で、終生責任を持って世話が出来るか。引っ越しや結婚、出産などのライフスタイルに変化があっても、猫を捨てたり、行政に持ち込むことなく飼育放棄をしないこと。上下運動が出来るケージや猫トイレ、爪とぎなど必要な物を用意できるか、なども確認する。
そのあと脱走防止を確認するための家庭訪問があり、問題なければそこでようやく仮譲渡契約とトライアルのスタートになる。万が一、訪問時に保護団体から飼育環境を指摘されたにも拘らず、脱走対策などを施さない場合は、猫の譲渡はやむなし、そこでお断り、となる。
問題ない場合、数週間から1ヵ月のトライアル後、先住猫との相性や環境に適応出来そうか、ご家族の意思などを確認し、その後晴れて正式譲渡契約になる。その時には、譲渡費用もかかる。保護されてからの適正な医療費やこれまでの飼育費の一部を「譲渡費用」として請求する場合もあるが、この部分に関しては事前に明確な説明があることが原則となっている。
猫を受取る際も、突然、「明日この住所に来てください」などの指示はあり得ないし、善良な保護団体では約束した日時に、トライアル時に訪問した住所にお届けするのが基本となっている。
譲渡のやり取りが面倒なのには意味がある
逆に、こんなやりとりがあったら要注意だ。今回の「純血種の子猫を無償で譲渡します」の保護猫詐欺でも利用された内容も含めて書き出してみたい。
・「無料でラグドール差し上げます」など純血種の子猫を格安・無償で提供
・SNSだけのやりとりで譲渡が進む
・団体名と住所を使っているが、問い合わせ先が不明確
・匿名性の高い送金方法(PayPay、ギフトコードなど)を指定
・譲渡を希望しているのに猫と一度も会わないまま話が進む
上記のような記載ややり取りがある場合は、即詐欺を疑うべきだ。ひとつでも該当する場合は、関わらないことがもっとも安全である。そして、もし万が一、金銭を振り込んでしまった場合は、速やかに最寄りの警察署に相談し、悪用された団体にも状況をお知らせいただきたい。今後の被害拡大の防止にもつながる。
こうした被害に遭わないためにも、「譲渡の正しい流れを知ること」が何よりも大切だ。譲渡はいつでも、慎重で丁寧であるべきもの。なぜなら、その判断が“猫が幸せになれるかどうか”を左右するからだ。
中には、保護活動をする団体などから丁寧な確認を受けることに不快感を覚え、「疑われているようで気分が悪い」と怒って帰ってしまう方や、譲渡を断られたことに腹を立て、団体に苦情を入れるケースも存在する。独身者や年齢制限などの譲渡条件にSNSなどで「差別だ」と訴える人もいる。
だが、動物の命を預かる団体は、譲渡後の“猫の幸せ”までを見据え、強い責任を持って活動している。時に、「譲渡を見送る」という判断を下さねばならない場面もある。それは決して相手を否定しているのではなく、猫たちの幸せを最優先に考えているからに他ならない。
過去にも、譲渡したのはいいがその後音信不通になったり、譲渡された複数の猫を痛めつけるといった虐待目的の里親詐欺の事件もあった。転売目的もしかりだ。そうでなくても、譲渡先で不衛生な環境に置かれたり、病気になっても治療もされず医療ネグレクトにより命や身体に大きな影響を受けてしまうこともある。不適正飼養は動物が長期にわたり苦しむことになってしまうだけだ……。
正しく活動している保護団体の譲渡に関しての面倒に思えるプロセスは、責任ある活動に対する姿勢であり、動物たちの幸せを考えた結果でもある。だからこそ、適正な譲渡の流れをぜひとも知っていただけたらと思う。そういった視点を持っていれば、善良な団体を見分ける目を養えるだろうし、詐欺被害に遭うことを防ぐことにもつながるからだ。そして、それこそが、自分を守ることでもあり、なにより動物を不正な利用から守るためでもある。
あなたの「この子を助けたい」という気持ちが、悪意に利用されないために、冷静な判断と正しい知識を持って、猫とのご縁を結んでほしい。
杉本 彩(女優 公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長)