高齢者だけじゃない。杉本彩が指摘「愛猫や愛犬をあなたは最後まで守れる準備をしていますか」 | トピックス

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2025年5月16日 FRaU

 

2023年4月1日~2024年3月31日の間に、全国の保健所等に飼い主から引き取り要求があった数は、犬(成犬1,922、幼齢の子犬88)、猫(成猫6,581、幼齢の子猫1,997)だった(※1)。年々引き取り依頼は減少し、それに伴う殺処分も減ってはいるがゼロになったわけではない。さらに、自治体によって数に違いはあるが、シニア世代からの引き取り依頼の増加を懸念する声も多い。 

 

杉本彩さんが抱いているのは、2024年3月に看取ったクロちゃん。杉本さんは今までたくさんの犬や猫と暮らし、看取ってきている。写真提供/杉本彩(現代ビジネス)

 

【写真】杉本彩さんが愛し、看取ったたくさんの愛猫、愛犬たち

 

もちろん、元気に大切にペットとともに暮らす高齢者の方もたくさんいる。しかし、「病気で長期入院をすることになった」「介護が必要になった」「介護施設に入居することになった」「家族の介護で手一杯になってしまった」、そして「飼い主死亡」……。飼い主本人ではなく、残された家族が引き取り依頼に来るという事例が多いのも現実だ。しかも、体調が悪くなるのはシニア世代に限ったことではない。 

 

長野県松本市の繁殖事業者の事件など、動物虐待事案の告発や、動物福祉向上に関する普及啓発活動を積極的に行い、 『公益財団法人動物環境・福祉協会Eva』 の主宰でもある俳優の杉本彩さんが自ら執筆する連載の第4回では、「もしものときに、愛するペットをどう守るか」について寄稿いただく。 

 

以下より、杉本彩さんの原稿です。

飼い主が亡くなって取り残された犬と猫

人生の終わりは、誰にでも訪れる。50代半ばを過ぎると、「自分がいつかこの世からいなくなる」という実感が、ぐんと現実味を帯びてくる。そして、その「死」に最も大きく影響を受けるのは、自力では生きていけない、物言えぬ“しっぽの家族”だ。 

 

7年ほど前、私が付き合いのある動物保護団体から受けた相談にも、高齢者とペットをめぐる悲しい出来事があった。 飼い主が亡くなり、10頭の猫と3頭の犬が保健所に引き取られた。10頭の猫はすでに殺処分されてしまったが、せめて犬たちだけでも救いたい、という相談だった。2頭の犬はすでに里親が見つかっていたが、残る1頭の行き先が決まらなかった。幸い、私の身近に、愛犬を亡くしてしばらく経っていた方がおり、事情を話すと、まるでこのご縁を待っていたかのように二つ返事で承諾してくれた。こうして犬たちは3頭とも無事救われたが、猫たちの命は、いともたやすく奪われてしまった。

 

亡くなった飼い主は、きっとそんな結末を望んではいなかっただろう。しかし、現実は非情だ。亡くなった高齢者が可愛がっていたペットだからといって、その家族が引き取ってくれるとは限らない。むしろ、そのようなケースは少ない。頭数が多ければなおさらであり、里親探しまで責任を持つ家族もほとんどいないのが現実だ。行政への引き取り依頼、あるいは動物愛護団体への丸投げというケースがやはり多い。もちろん、家族にも事情があることは理解できるし、引き取りたい気持ちがあっても、叶わない場合もあるだろう。だからこそ、自分の力と責任で守れるよう、準備が必要なのだ。 

 

しかし、もちろんこの課題は高齢者だけではない。若い人たちも、何が起こるかわからないこの世の中、事故や病気、事件に巻き込まれることが絶対にないとは言い切れない。 

 

だからこそ、動物と暮らすすべての人は、たとえ自分がいなくなったとしても、かけがえのない大切な家族を守るための準備をしておく必要がある。飼い主としての責任は、自分がいなくなった後まで続いているのだ。彼らが路頭に迷うことなく、穏やかに暮らし続けられるよう、今から準備を始めてほしい。

万が一のとき、誰に託すか

まずは、「信頼できる後見人」の確保である。 

 

自分が急に入院したり亡くなったりした場合に備え、代わってペットの面倒を見てくれる人をあらかじめ探しておきたい。家族や信頼できる友人、あるいは動物保護に理解のある知人などに話を通して了承を得た上で、ペットの性格、食事、既往歴、日常のケアや注意点などを丁寧に伝えておくとよい。 

 

そこで、近年注目されているのが「ペット信託」という制度だ。ペット信託とは、飼い主が病気や死亡によりお世話できなくなったとき、あらかじめ指定した受託者に、飼育費用として自分の財産を使ってもらい、その人が指定した期間、指定した方法でペットの世話をしてもらうという法的な仕組みである。ペット信託では、飼育費用や受託者の指定だけでなく、受託者に万一のことがあった場合の代替案、ペットが亡くなって契約終了となった後に残ったお金「残余財産」の取り扱いまで細かく取り決めることができる。契約の際には、法的なトラブルを防ぐためにも、弁護士や司法書士など専門家への相談をおすすめしたい。 

 

さらに準備の一環として有効なのが「エンディングノート」の制作だ。終活などでも作るといいと言われるエンディングノートだが、ペット用を準備することをおすすめしたい。法的拘束力はないものの、ペットの情報(名前、年齢、性格、健康状態、好きなもの、かかりつけ病院など)を詳細に記録しておけば、後を引き継ぐ人の負担を大きく軽減できる。信頼できる人にノートの存在を知らせ、家のわかりやすい場所に保管しておくとよいそうだ。 

 

私自身、もし自分が愛猫や愛犬より先に逝ってしまった場合に備え、10年ほど前から、動物たちのお世話にかかる費用を貯める銀行口座を開設している。私に代わって終生お世話してくれる人に託すためのお金だ。この貯金を始めたのはまだ40代だったが、動物愛護活動を通してさまざまな問題に気づき、早いうちから準備の必要性を自覚した。

 

また、私の場合、仕事で不在の際には、信頼できる従姉妹が日頃からフォローしてくれており、それぞれの性格や食べ物の好みまで把握してくれている。すでにかなりの準備は整っているが、もし年齢の近いその従姉妹が受託者になれない場合には、その娘にお願いするという代替案も考え始めている。従姉妹の娘は、子どもの頃から動物と暮らし、「動物を守る」という思いを幼いながらに持っていた。こうして、自分より若い世代の中から候補者をイメージしておくことも大切だと実感している。

託せる人がいない場合はどうするか

とはいえ、周囲に託せる人がいない場合もある。その場合は、動物保護団体が運営する施設や、老犬・老猫ホームといった選択肢も検討できる。ただし、大切な家族を託す以上、施設や団体の信頼度を慎重に見極める必要がある。動物にとって適切な環境と飼育体制が整っているか、自分の目でしっかり確認してほしい。 

 

近年では、終生飼養が難しくなる高齢者とペットの問題に着目した「動物愛護ビジネス」も登場している。保険会社などによるペット信託の営業活動がその一例だ。一部の保険会社は、動物保護団体と連携してペット信託を勧誘しているが、団体の名前を利用して信頼感を演出しつつ、実際には十分な飼育体制が整っていない例もある。「終生飼養を保証する」とうたっていても、契約後に受託者となる団体が解散したり、約束通りの飼育が行われなかったりするリスクもあるので、注意が必要だ。 

 

また、サービスの普及に伴い、保険金を目当てに信託制度を悪用する団体が現れる懸念もある。飼い主の死後、保険金が適切に使われているか、施設で快適に暮らしているかを監視する仕組みも、今後求められるだろう。 

 

こうした問題を防ぐためには、契約時に法律の専門家に内容を必ず確認してもらうこと、そして、動物保護団体や事業者の実績や財務状況を調査し、信頼できるかどうかを厳しい目で見極めることが不可欠だ。団体や事業者のパンフレットや説明を鵜呑みにせず、「誰が・どこで・どのように」世話をするのか、しっかり確認してほしい。そうしなければ、愛犬・愛猫を守るための制度が、かえって彼らを不幸にしてしまうかもしれない。忘れてはならないのは、「誰がこの子の命を支え、かわいがってくれるのか」という、現実的な視点だ。

外出先で倒れたら、家にいるペットは?

こういった問題をわかりやすく解説し、話題を集める頼もしい指南書がある。 『私が死んだあとも愛する猫を守る本』 (富田園子著/日東書院本社)という書籍には、猫を守るための“しくみ”作りについて書かれている。もちろん、守る対象は猫に限らない。この本が実用的で素晴らしいのは、さまざまな問題を想定し、それに備える具体策を指南してくれている点だ。 

 

たとえば、自宅や外出先で倒れた場合、施錠された家の玄関をどう開けるか、ペットをどう救出するかといった問題にも対応策を示している。また、一人暮らしの若い人に向けても、事故や災害に備え、ペットを守るためのセーフティネット作りの重要性を訴えている。猫を不幸にしたくないという著者の思いが、ひしひしと伝わってきた。 

 

なお、私のインタビューも掲載されている。愛犬や愛猫の未来は、私たちの“今”の選択にかかっている。愛する家族の命を最後まで守るために、賢く、慎重に、そして誠実に準備を進めたい。

 

杉本 彩(女優 公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長)