2025年5月6日 熊本日日新聞
熊本県の上益城郡内で保護されたシェパードのジロー(オス、推定5歳)は殺処分の危機を乗り越え、災害現場で行方不明者を捜索する災害救助犬に成長した。通常1歳前から訓練を始めるが、ジローは5歳から挑戦、2カ月のトレーニングで一発合格した。保護した甲佐町の一般社団法人「山ぼうしの樹犬猫の会」の森川瞳さん(37)は「生来の性質や根気強い訓練が生きた奇跡」と力を込める。
災害現場を想定した訓練所で、捜索訓練をするジロー=23日、相良村(熊本日日新聞)
ジローは80代夫婦が飼っていたが、夫婦とも入院が必要になり、御船保健所に相談。2024年6月、犬猫の会に保護された。庭の犬小屋につながれ、首は首輪が食い込んで出血し、うんでいた。威嚇がひどく、すぐにかみつこうとした。
熊本県は殺処分ゼロを掲げるが、人に危害を与える恐れがある犬は安楽死の可能性もあるという。
森川さんはシェパードの性質に詳しい人吉警察犬訓練所(相良村)の開田宏所長(61)に相談。開田所長らが「攻撃するのは周囲との接し方が分からず、混乱しているため」と見て根気強く声をかけ続けると、徐々に人が触っても嫌がらないようになり、ほかの犬と遊べるように。首のけがも手術し完治した。
保護直後、首の手術をするジロー=2024年6月18日(山ぼうしの樹犬猫の会提供)(熊本日日新聞)
人や環境に慣れた頃、ボール遊びに興味を示した。「ちょうだい、遊びたい」というしぐさをする。開田所長によると、警察犬や災害救助犬になるには、人が投げたボールをくわえて持ってくる「持来欲[じらいよく]」が欠かせない。ボール遊びを基に捜索やほえる訓練をするためだ。ジローの持来欲の強さが分かり、第二の人生への道が開けた。
昨年12月に本格的な訓練を開始。1月の警察犬認定試験は不合格だったが約1カ月後、災害救助犬の試験に合格。開田所長は「捜索ぶりは完璧。災害現場で貢献できる」と太鼓判を押す。
ジローは現在も人吉警察犬訓練所で訓練を継続。災害が起きればいつでも出動できるよう、捜索する力を伸ばしている。
保護犬から災害救助犬になったジロー。左は開田宏所長(山ぼうしの樹犬猫の会提供)(熊本日日新聞)
開田所長は成長を喜ぶ一方、シェパードならどの犬でも可能なわけではないと強調。「ジローは強いボール持来欲を維持できていたから救助犬になれた。特別な事例だ」。犬猫の会の森川さんは「本当はジローのような運命をたどる犬はいない方がいい。最後まで飼えるか、飼えなくなったら後見人をどうするのかなど考えて飼い始めてほしい」と訴える。(枝村美咲)