2024年11月2日 東洋経済ONLINE
■人気犬種ランキング2位ミックス犬
2024年のアニコム損害保険株式会社の人気飼育犬種ランキングによると、1位は15年連続で「トイ・プードル」、2位は昨年に続いて「ミックス犬(体重10kg未満)」でした。
【写真で見る】ペットショップの店頭に並ぶミックス犬「ミニチュア・ピンシャー×ヨークシャー・テリア」
ミックス犬とは、異なる純血犬種同士を交配させて生まれた犬のこと。確かに、街中を歩いていると、純血種ではないけれど、どこかある犬種に似ているなあと思う犬に出会うことが多くなりました。
授乳をするラブラドゥードル(ホタル /PIXTA)(東洋経済オンライン)
ミックス犬の例:
□小型犬同士の組み合わせ チワックス(チワワ×ミニチュア・ダックスフンド) マルプー(マルチーズ×トイ・プードル)」
□大型犬同士の組み合わせ ラブラドゥードル(ラブラドール・レトリバー×スタンダード・プードル)
□異なる大きさの犬同士の組み合わせ 柴チワ(柴犬×チワワ) ポンスキー(ポメラニアン×シベリアン・ハスキー)
先日、ネット掲示板で「ミックス犬はあり? なし?」の議論が勃発しました。インターネットの番組でも取り上げられ議論が過熱、さまざまな意見が上がりました。
■そもそも純血犬種・ミックス犬とは?
現存する犬は、同じ血統の親から生まれてきた純血犬種、異なる純血犬種同士を交配させたミックス犬、さまざまな異なる血統が混ざっている雑種犬に分類されます。
ミックス犬は販売をするうえで雑種との差別化をするために作られた造語で、正式にはミックス犬も雑種犬も交雑種です。
犬の起源は「狼」で、一部の狼がさまざまな進化、交配、自然淘汰などを繰り返し、最初の犬(交雑種)が誕生しました。そしてその国や地域にあった特性が維持されてきました。これが純血種の始まりです。
その後、世界各国で純血種の基準が設けられ、約200年前に犬種基準(スタンダード)が制定されました。これは、同犬種間の交配のみで誕生し、同じ特徴を持つ個体が産まれる(固定されている)ことが条件とされています。
国際畜犬連盟(FCI)は現在、355犬種を公認しています。
交雑種がFCIに犬種登録されることもありますが、そのためには、何世代か同じ血統同士の交配が継続され、犬種基準を確立する必要があります。少なくとも10年以上の年月がかかるこのプロセスは、しっかりとした目的と長期的な計画のもとで行われており、安易な考えで進められるものではありません。
■ミックス犬は純血種より健康か?
ミックス犬を扱うペットショップやブリーダーの多くは、「ミックス犬は純血種より強くて健康」といううたい文句で販売しています。しかし、これまでの研究では、どちらが健康なのかを明確に示すものはありませんでした。
そんななか、テキサスA&M獣医学・生物医学科学大学(CVMBS)らから、こんな研究(報告が載っているサイトはこちら)が発表されました。
Dog Aging Project(DAP)の「Health and Life Experience Survey」に参加した2万7541頭から、純血犬種の約60%を占める25犬種を抽出。飼い主のアンケートから、それぞれによく報告される10種類の健康上の問題を特定し、これらの生涯有病率の推定値をミックス犬と純血犬種で比較しました。
その結果、ミックス犬が健康上の問題を抱える可能性は、純血犬種と同じくらいだとわかりました。
Dog Aging Projectの責任者でCVMBS小動物臨床科学部の教授でもあるケイト・クリービー博士は、「確かに、特定の犬種に頻繁に発症する疾患がいくつかあります。そのことから、純血犬種はすべてその疾患にかかりやすいという誤解が広まっていますが、実際はそうではありません」とコメントしています。
「ミックス犬はあり? なし?」という議論が勃発した背景には、さまざまな問題が散見されます。人気上昇の裏で、次に挙げるような問題点が指摘されているのです。
■両親犬のそれぞれの遺伝性疾患を引き継ぐ可能性がある
純血犬種にはそれぞれなりやすいとされる遺伝性疾患があり、ミックス犬は両親それぞれの遺伝性疾患を複数引き継ぐ可能性があります。
実際、Orivet(遺伝子検査機関)によると、ラブラドゥードル(ラブラドール・レトリバー×スタンダード・プードル)は、遺伝性疾患を引き起こす29もの遺伝子、形質を引き継ぐ可能性があるとされています。
ミックス犬は健康だと思い込み、「親の遺伝子検査は必要ない」「片親の遺伝子検査をしてあればいい」と表記をしているペットショップやブリーダー紹介サイトなどがありますが、遺伝性疾患の予防はそんな簡単なものではありません。
■大きさの違う純血犬種同士の交配で骨格形成に問題
先日、埼玉県のペットショップでアラスカン・マラミュート(大型犬)とポメラニアン(小型犬)を交配した子犬が売られていることで、SNSで多くの批判的な意見が上がりました。
大型犬×小型犬の交配は、人工交配をしなければありえません。
極端な大きさの違いは、産まれる子犬の骨格形成に問題が生じる可能性が高くなります。何が起きてもおかしくないほどの体格差での交配は、厳に避けるべきです。
■先天性疾患や障害を抱えるリスクも
■毛色の掛け合わせで障害を抱えるリスクがある
皮膚や毛色をつくる「メラノサイト(色素細胞)」は、胎児期の耳や目、副腎、神経系の形成に大きく関わっていて、この細胞に関連する遺伝子の異常は、ときに障害を引き起こすことがあります。
例えば、単色同士の「白×白」「黒×黒」、多色の「ブラウン×ブラウン」「アプリコット×アプリコット」など、同系色の交配がベストとされています。しかし、異なる毛色の掛け合わせによっては、視覚障害が起こる可能性があります。
また、持っている遺伝子が重なると、心臓疾患などの先天性疾患や障害を抱えるリスクが高まることもあります。
特にミックス犬の交配では毛色を十分に考慮していないことが多く、問題が発生しています。
■望んだ外見的特徴が出ない個体も生まれる
「個性的で可愛い子が産まれてくるだろう」と期待して交配しても、望んでいる外見的特徴が出るとは限りません。上顎と下顎のサイズが違う、歯並びがガタガタ、長毛と短毛が入り交じって生えている……など、さまざまなケースがあります。
このような販売できない容姿の個体を、産まれてすぐに首をひねるなどして命を奪う悪徳ブリーダーもいます。
■ミックス犬の繁殖は法の抜け穴だらけ
ミックス犬は交雑種なので、血統書はありません。誕生日の偽装が容易なため、法律で定められた「56日規制※」をすり抜け、若年齢で販売しているケースがあると耳にしています。健康上に問題が生じても、「ミックスだから何が起こるかわからない」ですませられます。
※改正動物愛護管理法では、生後56日を経過しない犬や猫の販売、販売目的とする引渡し・展示が禁止されている。
また、環境省令の「数値規制」では、雌犬の生涯出産回数は6回まで、交配年齢は6歳までという繁殖制限がありますが、血統書がなければ誰が母犬かわからず、それらもごまかすことが可能になります。
悪徳ブリーダーにとって、ミックス犬の繁殖は「法の抜け道」だらけです。そもそも、純血犬種の繁殖をしている「責任あるブリーダー」は、ミックス犬を作出することはありません。
その犬種を心から愛し、血統、犬種標準、健康を重視しながら、健全に繁殖し、後世につなぐ努力をしています。受け継がれてきたものを崩す行為は絶対にしません。
トイ・プードルの繁殖歴40年以上のブリーダーのKさんは、「ミックス犬と耳当たりのいいネーミングで呼ばれて高値で販売されているが、以前は管理不足で生まれてしまった子犬。これを認めることは、管理不足を容認するようなもの。いまミックス犬を繁殖しているブリーダーの多くは、“人気があるので売れる”と考える利益優先のブリーダーだ」と話します。
■すべての犬が「唯一無二」の存在
実際、交配をする場合には、母犬の健康上のリスクはないか、無理な交配ではないか、親から遺伝病を引き継ぐ可能性がないか、NGな毛色の組み合わせではないか、妊娠中に母犬に過剰な負担がかからないか、帝王切開になるリスクがないか……といった配慮が必要です。
しかしながら、知識や経験、モラルが欠けているブリーダーが多すぎると、筆者は感じています。
産まれてきた犬の成長、健康において、ブリーダーが全責任を負う覚悟がなければ、純血犬種はもとより意図的にミックス犬を作出すべきではないと考えます。人為的に無理な交配を行うことは「命の冒涜」であり、倫理的にも慎むべき行為です。
ペットショップやブリーダー紹介(仲介)サイトなどで表舞台にいる大人気のミックス犬の陰には、その舞台に上がることさえできない不幸な犬たちが純血犬種以上に多く存在しているという現実があります。
ミックス犬を「唯一無二」と声高に主張する人がいますが、すべての犬が「唯一無二」です。
そんなうたい文句に惑わされることなく、飼う側も正しい知識を身につけ、どのような犬をどこから迎えることが「人と犬の幸せな共生」につながるのかを、しっかりと考える必要があるのではないでしょうか。