2024年8月12日 弁護士JPニュース
今年6月、鳥の保護などを行うNPO法人に生きたまま封入されたインコが荷物として“郵送”されたことが明らかになり、SNSを中心に物議をかもした。
虫かごに入れられゆうパックで送られてきたインコ(画像提供:NPO法人ことりのおうち)
【元の投稿】「命をこんな危ない方法で送るなんてありえない…」
事前に連絡なく一方的にインコが送られてきた「NPO法人 ことりのおうち」は、X上の投稿で、梱包(こんぽう)には空気穴もなく、猛暑日なら死んでいたと指摘。「命をなんだと思ってるんですか?」と憤りをあらわにし、一連の行為について注意を呼び掛けた。
その後の報道等によれば、NPO法人は送り主と連絡がとれたといい謝罪を受け入れ、送られてきたインコも無事新しい飼い主の元に引き取られたという。
日本郵便「より良いサービス提供について検討を行っている」
ゆうパック『動物愛護法』に反している可能性?
現在、日本郵便が行っている動物の輸送に対しては、動物福祉に取り組む「公益社団法人 日本動物福祉協会」や「NPO法人アニマルライツセンター」などが動物愛護法上の違法性を指摘している。
飼い鳥の保護活動に取り組む「認定NPO法人TSUBASA」の監事なども務め、動物と法律の問題に詳しい青木敦子弁護士も、生体輸送そのものは、適切に行うのであれば法律に抵触するものではないとしつつ、「日本郵便が想定している動物の輸送に関して言えば、動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動愛法」)44条2項に抵触し、愛護動物虐待罪に該当する恐れがあります」と指摘する。どういうことなのか。
「愛護動物虐待罪における虐待の具体例には『みだりに給餌もしくは給水をやめ、衰弱させること』や『みだりにその健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束し、衰弱させること』などが規定されています。
日本郵便は小動物を郵送する際の条件に給餌や給水、換気ができないことなどを挙げています。また、包装が必要で空気穴についての規定もありません。鳥に関しては近距離と規定がありますが、それでも配達は1日以上かかるでしょうし、誤配や遅延のリスクもあります。
こうして見ていくと、動愛法44条2項のみならず、同法2条で定められた『基本原則』や、国際的に認められている動物福祉の理念『動物の5つの自由(※)』に反していて、動物を苦しめる行為であることは間違いないように思います」(青木弁護士)
※「飢え・渇きからの自由」「不快からの自由」「苦痛からの自由」「恐怖・抑圧からの自由」「自由な行動をとる自由」の5つで動愛法の基本原則にもなっている。
送り主の“選択”は賢明だったが……
すでに多くの人が指摘しているが、今回の場合「小鳥を送った人」にも問題があったと青木弁護士は続ける。
「NPO法人の投稿などを見ると、送り主は近しい方が亡くなって飼えなくなったインコを送ったようです。昔は飼えなくなると屋外に逃がしてしまう人が多かったことを考えると、保護施設に渡すという選択自体は賢明だったと思います。ただ、残念ながら無断で送り付けるという“やり方”は犯罪になってしまうのです」
具体的には、送り主の行為は動愛法44条3項の愛護動物遺棄罪に当たるという。
「遺棄罪における『遺棄』は、場所的離隔を伴って、被遺棄者の生命・身体に危険な状態を作り出すことであるため、被遺棄者の生命・身体が実際に侵害されていなくても完成する犯罪(危険犯)に分類され、現実に助かったかどうかは成立に関係ありません。
たとえば、病院の前に赤ちゃんを遺棄した場合、たとえ助かったとしても、赤ちゃんの生命・身体にとって危険な状態を作り出す行為を行ったことには変わりがないため、単純遺棄罪(刑法217条)ないし保護責任者遺棄罪(刑法218条)の成立に影響はありません。愛護動物遺棄罪における『遺棄』も、人間の赤ちゃんの遺棄と考え方は同じです。
本件では、ゆうパックでインコを送付すること自体の危険性(到着に1日以上かかること、餌や水の手当無し、温度管理無し、換気無し等)があり、送付の際にゆうパックにおける取り扱いを認識したうえで輸送を依頼していると見られることから、インコの生命・身体にとって危険な状態を作り出す行為を行ったと評価せざるを得ず、送り主に愛護動物遺棄罪(動愛法44条3項)が成立します」(青木弁護士)
今回インコは助かったが、死んでしまった場合には罪が変わっていたのだろうか。青木弁護士は動愛法が軽いと言われるゆえんだとして次のように説明した。
「人間の赤ちゃんが遺棄された末に死亡した場合、遺棄者は『遺棄等致死傷罪(刑法219条)』として、単に遺棄しただけよりも重い罪が適用されます。しかし動物の場合、特に今回のようなケースでは、死んでしまった場合も単なる愛護動物遺棄罪の適用にとどまります。動物を過失でうっかり殺してしまったとしても、処罰規定がないからです。誰が見ても殺す目的を持って送っているなと分かるようなケースでない限り、今の法律では処罰できないのです」(青木弁護士)
ペット飼い主は「自分に“万が一”があった時」のことを考えて
青木弁護士は騒動を「今回は送り主が保護団体に事前にコンタクトを取っていれば何も問題にならなかった」と振り返り、併せて“ペットの飼い主の責任”についても言及した。
「ペットの飼い主は“自分に万が一のことがあった時”にペットを託す先を決めて、周囲に伝えておくことがとても重要だと改めて感じました。
ペットには所有権が発生しているので、飼い主に確認せずに他の人が何か対処することはできません。たとえば、意識不明になって入院ということになった時に、行政や保護団体、近隣住民がペットを発見してもどうすることもできないんです。実際、放置せざるを得ず死んでしまったインコも少なくありません。
家族や近しい人に希望を伝えておくほかに、臓器移植の意思表示カードのように『ペットのための意思表示カード』を財布の中などに携帯する、あるいはケージにも貼っておくと安心です。自分が選んだ納得いく保護団体がもしあれば、その連絡先も書いて申し送りしておくと良いと思います。
私が所属するNPO「TSUBASA」では『ペットのための意思表示カード』を発行しています(2020年6月発行とり村回覧板 TSUBASA20周年特別号の巻末付録)。他にも多くの保護団体が『ペットのための意思表示カード』(名前は団体によって異なります)を取り扱っているので、ぜひご自分の考えに合う保護団体を探してみて下さい」