保護犬と暮らせるグループホームに潜入「地域社会のペットも障害をもつ人も安心できる居場所」 | トピックス

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2024年5月17日 介護ポストセブン

 

 高次脳機能障害の母のケアを幼いころから続けてきた元ヤングケアラーのたろべえさんこと高橋唯さん。いま気になっているのがペットと暮らせる施設だという。母が暮らせる施設を探す中で出会った、ある障害者グループホームを訪ねてみました。

取材・執筆/たろべえ(高橋唯)さん

 

「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。

 https://ameblo.jp/tarobee1515/

動物と暮らすことができる施設

 筆者は大学時代、研修でオーストラリアの老人ホームに行った。その施設には、定期的に保護犬が連れてこられ、入居者さんと触れ合う機会が設けられている。入居者さんにとってはアニマルセラピー効果が期待でき、動物保護団体にとっては老人ホームでの募金活動が保護活動資金になる仕組みとのこと。

 

 当時、筆者も元保護犬のタロウ(ペンネームの由来)を飼っていたこともあり、とても印象に残る話だった。

 

 その後数年が経ち、母に入居してもらうにはどんな施設がいいのか調べているなかで、保護犬や保護猫と暮らせる障害者グループホームの支援を行う「アニスピホールディングス(以下、アニスピ)」の活動を知った。

 

 同社に紹介いただき、わんちゃんと入居者さんが暮らす千葉・印西市にある「グループホームいんザイ 小林牧の里」へ――。チワワとミニチュアダックスを親にもつ同ホームのアイドル、さくら(3才)が早速、出迎えてくれた。

 

 

ペットと暮らせるグループホームに潜入

「グループホームいんザイ 小林牧の里」代表の枝幹雄さんにお話を伺いました。

 

 

たろべえ:なぜペットと暮らすグループホームを始めたのですか?

 

枝さん:実はもともと福祉関係の仕事をしてきたわけではなく、ずっとIT関係の仕事をしていたんです。定年後になにかしてみたいと思って、いろいろと探している中でアニスピさんに出会いました。

 

 私には障害のある兄がいて、地域に障害者の暮らす場所が少ないことが日頃から気になっていたということもあり、グループホームの立ち上げを決めました。犬も前から家で飼っていて、好きだったんです。アニスピさんには立ち上げにあたっての物件探しや申請手続き、保護犬の譲渡斡旋などのサポートをしていただきました。

 

 2021年に印西市内に、こちら(女性棟)をオープンして、その後は、隣の白井市に男性棟を、そして新たに3棟目(女性棟)を印西市内に立ち上げまして、現在入居者さんを募集中です。

 

 

たろべえ:現在、どんなかたが入居されているのですか?

 

枝さん:女性棟には20代から50代の入居者さんが4人いらっしゃいます。みなさん、自分の身の周りのことは自立して行うことができるかたです。日中は就労していたり、日中活動に出かけたりしています。

 

 

たろべえ:保護犬を引き取ったのはいつですか?

 

枝さん:2022年の4月にアニスピさんから譲渡していただきました。桜が咲いている時期だったので「さくら」と名付けました。

 

たろべえ:入居者さんはさくらとどのように関わっていますか?

 

枝さん:朝の出かける前の時間や、夕方帰ってきてから夕飯までの時間に、リビングでさくらと触れあっています。

 

 さくらが来る前は、入居者さん同士がうまくなじめないこともありましたが、今ではさくらがいることで共通の話題をもつことができています。最初は「犬は苦手」と言っていた入居者さんも、今ではすっかりさくらと仲良しです。さくらも人が大好きで、人のそばにいることが嬉しいみたいです。

 

たろべえ:さくらを迎えたことは、入居者さんにとっても、さくらにとってもよかったことなんですね。

 

枝さん:そうですね。いつも入居者さんのことをよく見てくれているスタッフも、さくらがみんなを笑顔にしてくれていると感じているそうです。

 

 今朝も気分が少し落ち込んでいた入居者さんがいたのですが、さくらと触れあっているうちに元気になって仕事に出かけて行ったと教えてくれました。

 

 また、ある入居者さんは、毎日出かけるときにさくらがお見送りしてくれることが嬉しくて「“いってらっしゃい!”してくれて嬉しい!さくら、行ってきます!」と出かけて行きます。さくらは入居者さんのことも、グループホームを出入りする人のことも、よくわかってるみたいですよ。

 

たろべえ:さくら効果、絶大ですね。逆に保護犬を迎えることで大変な部分はありますか?

 

枝さん:入居者さんによっては、元気なときはいいけれど、夕方に疲れて帰ってきたときに犬の鳴き声がすると気が滅入ってしまうというかたもいらっしゃいますね。

 

 また、保護犬のお世話は職員が行っているので、そのための人員確保も課題です。さくらのお世話も職員が行っています。毎日ご飯をあげて、朝夕2回散歩に行ってもらっています。入居者さんに関わってもらってもよいのですが、現状、お世話をすることまでは難しいようです。

 

 そしてやはり、一緒に生活するからには日々のご飯代、病院代やトリミング代といったところでも予算が必要になってきます。

 

たろべえ:やっぱり動物と暮らす以上、単純にセラピー効果を得られるというだけではないのですね。

 

枝さん:はい。今のところは、これ以上保護動物を増やす予定はなく、さくらを大切にしながら暮らしていこうと思っています。

 

 

障害や病気があっても当たり前に動物と暮らせる地域社会へ

 訪問時、さくらは最初こそ警戒して吠えていたが、すぐに慣れて近寄ってきてくれた。初対面にもかかわらず、嫌がらずになでさせてくれてありがたかった。

 

 ひょっとして、こちらの緊張を察知して「大丈夫だよ~」と言ってくれていたのだろうか?さくらがいてくれたおかげで取材の雰囲気が和やかになったように感じた。

 

 ヤングケアラー時代、タロウがいつもそこにいてくれるだけで、心の支えになっていたことを思い出した。また、母もたまにタロウのおやつを買ってくることがあり、タロウを家族として大事にしたいという思いがあったようだ。私や父と違って、タロウは母に口うるさく注意してくることがないので、母にとっても拠り所だったのかもしれない。

 

 母は身の周りのことも介助が必要なので、現状のグループホームで生活することはなかなか難しいが、今後ぜひ、動物と接する機会のある施設も視野に入れて探していきたい。

 

 環境省の資料によると、令和4年度に日本国内で殺処分された犬や猫は約1万匹。年々減少しているもののゼロにはほど遠い。

 

 一方、グループホームに入居している障害者の数は年々増加し、令和元年には施設入所者の数を超えている。 

 

 動物を飼育できるのは、基本的には自身が健康で動物の命に責任をもつことができる人だ。しかし、周りのサポートがあれば、病気や障害があっても動物と共に暮らすことを選択できる。それは、さくらのように人間のことが好きな保護動物にとっても望ましいことだと思う。

 

「ペット共生型障がい者グループホーム」での生活は、障害者の暮らし方のひとつにもなり、保護動物の暮らし方のひとつにもなる。課題もあるが、これからさらに障害者と動物との暮らしの在り方として、身近になっていってほしい。

 

【データ】

■グループホームいんザイ 小林牧の里

千葉県印西市小林1588-22

https://ntnet-ghome.com/

 

■アニスピホールディングス

同社が展開するペット共生型障がい者グループホーム「わおん」「にゃおん」

https://anispi.co.jp/business/waon/

 

参考/環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

 

厚生労働省「障害者の居住支援について(共同生活援助について)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000851065.pdf

 

→たろべえさんのほかの記事を読む

ヤングケアラーに関する基本情報

言葉の意味や相談窓口はこちら!

・ヤングケアラーとは

 日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。

・ヤングケアラーの定義

『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。

・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている

・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている

・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている

・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている

・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている

・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている

・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している

・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている

・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている

・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている

・相談窓口

■こども家庭庁 ヤングケアラーについて関連サービスの相談窓口

https://kodomoshien.cfa.go.jp/no-gyakutai/

児童相談所の無料電話:0120-189-783

 

■文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310

https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm

 

■法務省「子供の人権110番」:0120-007-110

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html

 

■東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス

https://lin.ee/C5zlydz