ペットの輸血はドナー探しが難しく…動物病院飼育の「供血犬(猫)」頼りには限界、新たな動きも | トピックス

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2024年5月13日 読売新聞オンライン

 

 飼育する犬猫のけがや病気で輸血が必要となった時、ドナーをどう探すかが飼い主たちの悩みとなっている。ペット熱の高まりで求める治療が高度化する一方、動物病院がドナーとして飼育する「供血犬(猫)」の頭数には限りがある。ネットやSNSでドナーを探す飼い主もおり、動物病院を中心に飼い主同士の協力の輪を広げようという動きもある。(河部啓介)

 

SNSで募る

「ペットの輸血が、ここまで難しいとは思わなかった」。東京都内の会社経営女性(46)は今年3月、約10年前から飼っていたマルチーズの「しろ」(11歳、雌)を病気で失った。

 

 数年前から心臓が悪く、昨年末に容体が悪化。手術をしようと考え、横浜市の動物病院に相談したが、珍しい血液型だったこともあり、「今すぐ用意はできない。早くて3か月後になる」と言われた。

 

 すがる思いでSNS上に投稿し、十数人の返信があったが、血液型が適合せず、しろは手術ができないまま息を引き取った。

 

 

 ネット掲示板を運営するNPO法人「迷子犬の掲示板」(東京)には、ペットの血液ドナーに関する相談が毎月15~20件寄せられる。5年ほど前までは月数件で、年々増えているという。

 

 ペット保険を扱う「アイペット損害保険」(東京)によると、ペットの手術1回あたりの保険金請求額は2018年の平均約15万円から、22年には約18万円に増えた。大阪公立大の鳩谷晋吾教授(獣医学)は「ペットは家族という意識が強まり、飼い主が求める治療が高度化している」と語る。

 

売買規制

 

 動物の血液は、ヒトの血液と同様、医薬品医療機器法で売買が規制されている。そのため第一の選択肢となるのが、各病院がドナーとして飼育する供血犬だ。

 

 大阪市天王寺区の「クレア動物病院」は、飼育に力を入れる病院の一つ。現在4頭の供血犬がおり、田中誠悟院長は「ネットで調べて相談にくる飼い主も多い」と話す。

 

 ただし、劣悪な環境で飼育し、繰り返し採血すれば虐待で動物愛護法に抵触する恐れがあり、飼育コストがかかる。クレア動物病院では、24時間温度管理する犬舎や運動不足を予防するドッグランを整備。1頭につき月約7万円が必要だという。

 

 また、輸血を伴う治療が5年前の月平均1回から最近は6回に増えた一方で、「日本獣医輸血研究会」が定めるガイドラインでは採血は3週間~3か月以上の間隔を空けるなどと定めている。田中院長は「病院が受け入れ体制を充実させることが大切だ」と話すが、動物病院の規模や経営状態により飼育頭数には限界があるのが現実だ。

 

協力模索

 こうした中、飼い主との協力体制を模索する動物病院もある。
 

 奈良市の「奈良動物医療センター」は17年から治療に訪れた飼い主にドナーを依頼する仕組みをつくり、現在、犬猫を合わせ約45匹に登録してもらっている。

 

 

 約10年前は7頭飼育していた供血犬(猫)は今はゼロになったが、年間100件程度の輸血に対応できているといい、市橋くみこ獣医師は「供血犬(猫)には、一般のペットと同等以上の飼育環境を提供したい。それにはコストがかかり、治療費に反映せざるを得なくなる」と話す。

 

 京都市の「かもがわ動物医療センター」は6月にも獣医師や飼い主でグループを作り、犬の「輸血バンク」をスタートさせる予定だ。

 

  東京農工大の 呰上あざかみ 大吾准教授(獣医腫瘍学)の話 「供血犬は、動物愛護の観点から際限なく増やすことが難しい。飼い主同士の協力でドナーの確保が進むのなら、もう一つの望ましい方向ではないか」