2024年3月5日 朝日新聞デジタル
災害時に犬や猫などのペットとどう避難するか、自治体が対応を模索している。国は「同行避難」を基本としているが、現場となる自治体側の本格的な取り組みはこれからだ。千葉市の初めての訓練でも課題が浮き彫りになった。(重政紀元)
「(犬は)キャリーに入れたまま、こちらの部屋にどうぞ」。千葉市は2月9日、緑区内のコミュニティーセンターで同市では初となるペット同伴の避難訓練を実施。避難所の設営から受け入れ手続きまでの手順を確認した。
猫や小型犬はキャリーバッグで済むが、中型以上の犬を預けるにはケージが必要になる=2024年2月9日午後2時58分、千葉市緑区の鎌取コミュニティセンター
受付で飼い主の健康チェックなどはあったが、国が求めるペットのワクチン接種の確認はなかった=2024年2月9日午後2時47分、千葉市緑区の鎌取コミュニティセンター
2011年の東日本大震災ではペットと暮らす人が車中泊などを続け、健康を害する問題が各地で発生した。国は13年に「同行避難」を原則とする方針を示した。だが16年の熊本地震や今年1月の能登半島地震でも同様の問題が起きている。
千葉市は19年9月の台風15号で、ペット受け入れ可の避難所を初めて美浜区内に1カ所設置した。その後の台風19号では、各区ごとにペットとその飼い主専用の避難所を1カ所ずつ設置し、犬猫が計52匹が避難した。
ただ、マニュアルがなく、現場では市職員や獣医師が手探りで対応した。市はその後、国の方針に沿ったマニュアルを整備したが、実際に訓練するのは今回が初めてで、複数の課題が浮かび上がった。
一つはマニュアルの不備。国は狂犬病の予防接種や感染症防止のワクチン接種を避難所での受け入れに求めている。市の手順書には接種の有無を確認する記載がなかった。もう一つは動線の確保。動物との接触を嫌う人のため、一般の避難者と通路を分けたが、表示や職員配置が分かりにくかった。いずれも「トラブルになる」と訓練に立ち会ったNPOペット災害危機管理士会から改善を求められた。
避難所側の準備も整っていない。市内に372カ所ある指定施設で、具体的な対応を決めているのは4割にとどまる。避難の需要見込みや受け入れ可能な数も見通せていない。
市防災対策課の田中剛志課長は「指摘を受けた点はマニュアルの改定を急ぎたい。避難所ごとに設ける運営委員会にも速やかに必要な対応を求める」と話す。
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解決策が見つかっていない課題もある。
多くの自治体は安全上、犬や猫をキャリーバッグなどに入れることを求めている。だが、飼い主はペットフードや水、トイレ用品も用意する必要がある。
特に負担になるのは、犬や猫を入れるための「ケージ」。自治体がケージを備蓄するのは難しく、飼い主が用意するのが前提だ。これらを持って移動するのは困難なため、千葉市がペット同伴の避難所を設けた台風19号では、車での避難者がほとんどとみられる。
千葉市の訓練に参加した清水宏子さん(63)は県の動物愛護推進員を務め、自宅には譲渡先が決まるまで預かっている犬が常に複数頭いる。「徒歩ですべて連れて行くのは絶対に無理。車があっても中型犬以上を預けるのは難しく、避難をあきらめる飼い主は多いと思う」
飼い主の対応も不十分な点がある。ペットの災害対策ガイドラインを定める環境省によると、ペットのワクチン接種をしていないために受け入れられなかったり、受け入れ可能な避難所を事前に把握しておらず、到着までに時間がかかったりしているケースが過去の災害で起きているという。
市の依頼で訓練に立ち会ったNPOペット災害危機管理士会の大出智恵美理事は「災害時に何がペットに必要か事前に把握し、準備することは飼い主の責任。行政側も、飼い主が意識を見直すための取り組みをしてほしい」と話す。
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ペットの同行避難で必要な事前準備
①必要なワクチン接種
②ケージで慣らす訓練
③ペット用の非常防災パック(フード、水、トイレ用品など)の用意
④ペットの受け入れが可能な避難所の把握
持ち出しリスト
◆優先順位①<命や健康にかかわるもの>
病気のペットの療法食・薬▽フード・水(5日分以上)▽食器▽トイレ用品
◆優先順位②<飼い主やペットの記録>
連絡先▽ペットの写真▽ワクチン接種状況▽既往症・健康状態▽かかりつけの動物病院
◆優先順位③<ペット用品>
シーツ▽排泄(はいせつ)物の処理用具▽タオル▽ブラシ▽洗濯ネット(猫の脱走防止用)▽粘着テープ
※環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」から