帰る家なくした被災猫救いたい 珠洲に通い1カ月 25匹保護 | トピックス

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2024年2月25日 毎日新聞

 

地震で半壊した自宅内で、逃げていた猫を捕まえて運び出す尾戸かおりさん=石川県珠洲市で2024年1月8日、山崎一輝撮影© 毎日新聞 提供

 

 能登半島地震で多くの住宅が全半壊した石川県珠洲市宝立町鵜飼地区。住民が転居したり避難所へ身を寄せたりして人けがなくなった町で、尾戸かおりさん(51)は近隣住民の猫を捜し続けている。

 

 交通事故に遭うなどしてけがをした猫の保護活動をしていた尾戸さんは、23匹の猫と一緒に同地区の自宅で被災。近隣で発生した火災と津波警報を受け、猫が逃げられるように扉を開けて避難した。津波警報解除後に火災を免れた自宅へ戻り、行方がわからなくなった8匹の捜索を開始。地震による心労からか1匹の老猫は死んでしまったが、逃げ出した猫は約2週間かけて捕まえ、同県白山市の実家に移した。

 

 尾戸さんは2015年から猫の保護活動を始めた。農業研修のために訪れた同県穴水町で、夜に車を走らせていると車にひかれた子猫を道路上で見つけた。すぐに動物病院へ運んだが、小さな命を助けることはできなかった。「誰にも知られず、尽きていく命がある」ことを目の当たりにして、同じ境遇の猫がいたら次は必ず助けると心に誓った。

 

 被災後に行方不明の8匹の猫を捕まえるために設置した捕獲器には、他の家で飼われていたと思われる猫が入っていた。その多くが、がれきの中を移動した際にできたけがを両足にしていた。尾戸さんはそれらの猫の保護依頼のため保健所へ連絡すると、地震による混乱もあったためか「猫も家に帰りたいでしょうから、放してあげてください」という返答を受けた。見渡す限り倒壊した住宅が広がる同地区で、人もペットも帰る家がないことに絶望したが、いつか飼い主と再会できるようにと捕獲した猫は知り合いの動物愛護団体へ依頼して預かってもらっている。

 

 拠点を実家の白山市に移した尾戸さんだが今でも週2回、珠洲市へ往復するのは、避難所で生活する近隣住民から地震で逃げ出した猫を捜してほしいと頼まれたためだ。設置する捕獲器には、猫が凍えないよう新聞紙と吸水シートを敷き、中で暴れてけがをしないよう毛布をかぶせるなど注意を払う。依頼された猫はまだ捕まえられていないが、約1カ月間で25匹の猫を捕獲し、想像以上の数のペットが行き場を無くしていると感じている。

 

 猫は発情期の春を迎えると、雄は移動範囲を広げ、雌は雄に襲われた際に持った警戒心からすんでいた場所を離れる可能性があるという。また、倒壊した住宅に残された食料も少なくなるにつれて命の危険が迫るため、尾戸さんは捕獲を急いでいる。

 

 「ペットは家族。少しでも早くまた一緒に住めるようにしてあげたい」。地震で被災した全ての命に思いをはせながら、できることを懸命に続けている。【山崎一輝】