2023年9月26日 現代ビジネス
「数ではなく一頭一頭見てほしい」
9月20日からの動物愛護週間に合わせ、FRaU webにて公開した動物支援団体「ワタシニデキルコト」の代表 坂上知枝さんの記事の続編となる本記事。
当初は「保護犬猫ブームの裏側で」と題した前編「『保護犬・保護猫ブーム』の裏で起こる悲劇…動物保護活動の『善意』にしのびよるもの」、後編「『殺処分でも構わない』と…保護犬・保護猫を生み出す人間の『5つのパターン』」という2本の記事を作成する予定だった。
【写真】あばら骨が浮き出た、元猟犬のブンちゃん、ごんちゃんに玄米白米、縁蔵
だが取材を終え、ライターさんがまとめてくださったものを坂上さんにお見せしたところ、想定外の赤字が入った。
赤字とは、本来は言葉や内容の誤りを正しくするものだが、坂上さんからの赤字はそうではなく、坂上さんがこれまで出会ってきた犬猫たちの話がさらに多く書き加えられていた。
坂上さんの日常は壮絶だ。
凄惨な現場から犬や猫を保護する。ケガや世話の放棄などで息も絶え絶えの子たちは病院で手当てを受けさせる。 元所有者の虐待を受け、人を怖がるようになってしまった子は、坂上さんや預かりボランティアが心の傷をケアする。
譲渡先や里親探しは最も大変な仕事で、やっと幸せになってくれると引き渡しても、ほっと息つく暇もなく、また次の連絡が入って、対応に追われる。 これに加えて、PR会社の代表取締役という本業がある。
「保護犬」「保護猫」の存在がよく知られるようになり、「飼うならペットショップより保護犬」を希望する人々も増えてきた。それでもまだ殺処分される犬や猫は合わせて14457頭(令和3年度環境省自然環境局資料より)もいる。
坂上さんは、増えた、減ったと数で見るのではなく、一頭一頭がどんな思いで動物支援団体「ワタシニデキルコト」にやってきたか、知ってほしいという。 保護犬、保護猫を「引き受けてやろう」と考えているならなおさらのこと、ぜひ知ってほしい事実なのだ。
多数の辛い現場を目の当たりにしながら、決して諦めない坂上さんが保護した、愛する犬や猫たちの背景をお伝えする。
ハンターの右腕のはずが…
「耳が聞こえない犬」と思ったら…
助けられても、残る後遺症
白米は脳障害で生後1ヶ月には自力で動くことができなくなり9か月で天国へと旅立った。玄米は水頭症だが、坂上さんの家で暮らし、2歳になった。体は弱くても、みんなに愛され、今や坂上家のアイドルだという。
「餌やりさん」にお願いしたいこと
「様子をみると腰から下の力が入っていないようで、すぐに病院に連れて行きました。
レントゲン、エコー、血液検査、ウィルス検査の結果、骨には異常はなさそうでしたが、熱があり、エイズ陽性でした。
解熱剤、抗生剤、ビタミン入り点滴を受け、内服の抗生剤も処方されて帰宅。元気になるまで、妹宅の室内駐車場に作った縁蔵ハウスの中へ。
後日、睾丸と包皮が腫れて炎症を起こしていること、また、馬尾神経障害で麻痺があることもわかりました」
坂上さんは、縁蔵のステロイド治療に加え、「馬尾症候群が鍼治療でよくなった」という話を聞いて、鍼治療も開始した。当時団体で出していた『ワタデキ通信』に、こう書いてある。
「縁蔵は、案外嫌じゃなさそうで、おとなしく治療が進みました。 1回目の治療後、左脚を使って動けるように。すごい!
2回目の治療後はなんと、腰を上げて歩けていました! それもものすごく早く移動できるのです。
先生のお人柄もとても素敵で治療に行くのが楽しみです」
今月公開した記事「『保護犬・保護猫ブーム』の裏で起こる悲劇…動物保護活動の『善意』にしのびよるもの」「『殺処分でも構わない』と…保護犬・保護猫を生み出す人間の『5つのパターン』」について、SNSのコメントの中に「譲渡でお金が発生するならそれはビジネスです」というのを見た。
ワタデキを含む保護団体が、里親になる方に譲渡費用として「治療費、保護および維持にかかる費用の一部を負担していただく」ということへの反論なのだろう。
7年以上も餌をやりながら、縁蔵が動けなくなったら面倒は見られないと、坂上さんに押しつけた「餌やりさん」。
縁蔵を引き取った坂上さんは時間、労力、お金をつぎ込み献身する。これでも「ビジネスの一環」と言うのだろうか。
幾度も同じような目に遭いながらも、ヘルプに駆け付けるのを止めない坂上さんはこう話す。
「餌を与えるだけでその他のことは『知らない。関係ない』と思うのは無責任です。『かわいそうな猫にご飯をあげる』ことで、自分の気持ちを安心させているのではないでしょうか。
例えば、餌やりをしている人が引越しをしてしまえば、残された猫は餌場を探して彷徨うことになります。
一時の同情だけではかえって猫達の命を過酷なものにしてしまっていることに気づいてほしいと思います」
◇坂上さん宅に常時暮らすのは、犬2匹、猫4匹だが、生まれてすぐの、ミルクも排泄も人の手を借りないとできない仔猫を、娘の手も借りながら世話し、病気や怪我やアレルギーを持つ犬を通院させたり、散歩に連れ出しながら、救出依頼が来れば千葉や福島県に向かう。
本職のPR会社を経営しながら、活動資金を得るため「ワタデキストア」などで手作りアクセサリーの販売などもしたりもする。
だが、一匹でも多くの子を幸せにしたいと飛び回る坂上さんにも、「助けられない」案件があるという。
それは、「高齢や病気で繁殖に使えなくなり、ブリーダーが手放した繁殖用の犬猫」と「保護犬猫と謳って譲渡に回されたペットショップで売れ残った犬や猫」だ。
FRaU webでは、これまでひどい繁殖業者の実態についての記事や、そこにつながるペットショップの存在を問う記事をあげてきた。
どんな場合でも悪いのは人間であって、犬や猫には罪がない。 それでも助けられないと断言するのはなぜなのかと、モヤモヤしたのだが、後日X(元ツイッター)に「#クーアンドリク」の背筋の凍るような投稿を見つけ、考えが変わった。 デイリー新潮の記事とそれをツイートする杉本彩さん、滝沢ガレソさんらの投稿。膨大な数のリツイート。
記事や投稿にある「クーアンドリク」(Coo&RIKU)という名のペットショップの所業は、坂上さんが「動物支援団体」代表として、「助けられない」「助けてはいけない」と話す理由と一致するものだった。
後編「産ませまくった犬や売れ残りを「保護犬猫」と称し…ペットショップ・繁殖業者の仕組み」では、「保護犬猫」と称してペットショップとそれに繋がる繁殖業者がビジネスに利用する恐るべき仕組みを詳しくお伝えする。
文責:風間詩織
坂上 知枝(動物支援団体「ワタシニデキルコト」代表)