2023年8月30日 読売新聞オンライン
絶滅が危惧される動物の保全や調査研究で、人工知能(AI)の活用が広がっている。観察や個体の識別などをAIが肩代わりし、作業時間の大幅な短縮や人手不足の緩和に役立つ。
ツシマヤマネコの繁殖に取り組む西海国立公園九十九島動植物園(長崎県)では、オスとメスを一緒にすると激しいけんかをすることがあるため、発情期にだけ同居させる。メスが尾を震わせながら尿を放つ「尿スプレー」が発情期の合図だが、飼育担当の足立樹さんは「観察に時間と労力を費やし、見落としの可能性もあるのが課題だった」と話す。
園から相談を受けた北海道大の山本雅人教授(人工知能)のチームは、無人カメラで撮影したツシマヤマネコの行動をAIに学習させ、尿スプレーの瞬間がモニター画面に記録されるようにした。「人の目よりも正確に発情期を把握できる」(山本教授)。近く京都市動物園でも、ツシマヤマネコの繁殖のため同様の取り組みを始める。
群馬県にある森でイヌワシの保全に力を入れる日本自然保護協会はニコンと協力し、画像に「動物が写っているか」をAIに判別させる技術を開発した。
自動撮影カメラは風で揺れた植物などにも反応してしまうため、肝心の動物が写っていないことが圧倒的に多い。約3万枚の画像をAIに判別させたところ、人だと1週間かかる作業が2日間にまで短縮できた。
登山地図アプリを運営する「ヤマップ」(福岡市)は環境省と連携し、登山者がニホンライチョウを目撃した際、専用のアプリで写真を投稿してもらい、AIで個体を識別している。
中央アルプスでは2018年、およそ半世紀ぶりにライチョウ1羽が確認されて以降、同省が北アルプスのライチョウを放つなどして復活プロジェクトが進む。山岳地帯での調査は簡単でないが、ヤマップの担当者は「AIの導入で登山者との協力もしやすくなり、成果も上がっている」と話す。