2023年8月3日 朝日新聞デジタル
700年近い歴史を持つ三重県の無形民俗文化財「上げ馬神事」。同県桑名市の多度大社で例年5月に開かれ、若者が馬に乗って坂を駆け上がり、高さ約2メートルの土壁越えに挑む。4年ぶりの開催となった今年、「動物虐待だ」といった批判が殺到し、来年からは内容の見直しを迫られる事態となった。
伝統文化と動物虐待を巡る問題は、動物の取り扱いを初めて法制化した半世紀前から焦点となっていた。
動物保護法の立案時(1973年)の国会審議ではハブとマングースの格闘や土佐の闘犬などが虐待に当たるかどうかの質疑があり、いずれも「歴史的な意味がある」といった理由で「該当しない」との趣旨の答弁がなされた。
その後、動物愛護の意識の高まりとともに法改正が重ねられた。現在の動物愛護法に名称が変更され、厳罰化も進んだ。虐待の定義も明確になり、立案時は違法性はないとされながら姿を消した伝統もある。
土佐の闘犬はその一つだ。高知市によると桂浜公園内の「とさいぬパーク」が2017年に閉鎖されて以降は行われていない。20年の法改正で外傷が生じる恐れのある行為をさせれば虐待に当たる恐れがあると明記されたためだ。沖縄県などで観光名物だったハブとマングースの格闘も今はみられない。同県によると、サミットが開催された00年前後に、闘わせない内容への変更を促す助言指導を主催者側に行ったという。
一方、時代に合わせた対策を講じる伝統もある。新潟県小千谷市で行われている国の重要無形民俗文化財「牛の角突きの習俗」だ。小千谷闘牛振興協議会長を務める菅豊・東京大教授(民俗学)によると、負傷した動物への適切な保護を義務づけた13年の法改正をきっかけに獣医師が会場に常駐するようになった。闘牛に参加する会員らによる動物愛護の勉強会も開催したといい、菅教授は「時代の変化に合わせ、変えられる部分は変えつつ、角突きを承継していきたい」と話す。