2022年12月11日 ENCOUNT
研究所所長という肩書きながら、あまりにも強面すぎる見た目が話題に
「人間の指なら3、4本くらい軽く飛ばしますんでね」――。「ワニガメ生態研究所」所長という肩書きながら、そのあまりにも強面すぎる見た目からネット上で度々話題となる人物がいる。岡山でワニガメやカミツキガメ、ワニといったどう猛なは虫類を中心に保護活動を行う荻野要さんは、どんな動物であろうとも高額の治療費がかかろうとも、一切の依頼を断らない保護動物たちの最終引き取り人だ。私財を投げうってまで保護活動を続ける理由は何なのか。サングラスの下に隠された素顔に迫った。
荻野さんがワニガメの魅力に取りつかれたのは小学生の時。動物図鑑で見た怪獣のような見た目に一瞬で心を奪われた。しかし、初めて実物を目にしたのは意外にも28歳の時。恋焦がれた対象は遠く手の届かない存在だった。
「岡山の田舎だったので、当時は動物園でもなかなかお目にかかれなかった。子ども心に個人で飼うような動物ではないと分かっていたので、画用紙に実物大の絵を描いたのを見るだけで満足でした。姫路の動物園で初めて本物と対面したのは大人になってから。まもなくは虫類ブームが到来して、迷った末に『小さいのだったら……』と飼い始めたんです」
購入当初3センチほどだったワニガメは、1か月で3~4倍になり、半年を迎えるころには約30センチ、大人の顔ほどのサイズにまで急成長した。1990年代当時は輸入に一切規制がなく、クレーンゲームの景品や金魚すくいなど、街中のいたる所でベビーサイズのワニガメが売られていた。ペットショップの販売価格も2000円ほど、カミツキガメにいたっては800円ほどで、小学生のお小遣いでも手が届くほどの値段。幼少期からワニガメの生態について詳しかった荻野さんは、実際に実物を飼育してみて「これは大変なことになるぞ」と直感したという。
「とにかく成長スピードが尋常じゃない。都会の家庭ではすぐに飼えなくなって、池や川に捨てられて、そのうち帰化しちゃうことは目に見えていた。原産地ではすでに絶滅が危惧されている動物なのに、人に危害が及べば貴重なワニガメがどんどん駆除されることになる。事の大きさを説明しても誰も取り合ってくれないから、は虫類専門誌に頼み込んで連載を持たせてもらって、『捨てるくらいなら全部オレが引き取るから』と活動を始めたんです」
法改正前の活動実績が評価され、日本初の「外来・危険生物」保護施設に認定
岡山にある5000平米もの飼育施設では、現在ワニガメを始め、カミツキガメやワニ、犬や猫まで600頭あまりの動物を飼育。施設の規模は現在国内で正規登録されているワニガメ約2500匹、カミツキガメ約1000匹をすべて引き取っても飼育できるだけのキャパシティーがあるという。特定動物指定から20年あまりがたち、もう保護の依頼も少ないかというと、そんなことはないという。
ばく大な施設の運営資金をまかなうため、15年に新たに建設会社「鰐亀組」を設立。本業の利益のほとんどを保護活動に充てている。なぜそこまでして保護を続けるのだろうか。率直な疑問には「他にやるやつがいねえからだよ」と口にする。
「動物保護事業者が増えるということは、不幸な動物が増えるということ。誇りなんてない。恥だからね、うちみたいな仕事が増えることは」と語る荻野さんは、誰よりも不幸な動物がいない世界が訪れることを祈っている。