2022年9月24日 現代ビジネス
トラブル続きの動物保護シェルター
鹿児島県内の動物保護団体提供
関係者によると、まず地権者に無断でシェルターを作ろうとしたことからトラブルに発展。その後、別の場所に変更したのだが、その土地の造成費用は現在でも未払いのままだという。
そんな経緯を経て、昨年10月に立ち上げられた同団体の名ばかり動物保護シェルターは、住宅地から離れた鹿児島県K市の山中にある。敷地内には3つのプレハブ小屋と仮説トイレだけ。
当初は電気も水道も通っておらず、動物の飼育に必要なライフラインはなにも整備されていなかった。そこに熊本県、茨城県、広島県などの動物愛護センターから引き出された犬11匹が連れてこられ、”保護”された。
「現在はかろうじて電気は通っていますが、電気代が払えなくてよく止められています」
そう話すのはH氏の活動に疑問を持ち、悲惨な実情を訴え続ける動物保護団体の鈴木恵美子さん(仮名)
現在、この”シェルター”と称したプレハブの中には、9匹の犬と4匹の猫が保護されている。たしかに殺処分を免れ、命が助かったと言うことはできるが、ここの環境は劣悪そのものだった。
犬も猫も狭い檻の中に……
Sの元関係者の一人、斎藤陽子さん(仮名)が重い口を開いた。
「このシェルターにいる犬たちは散歩にも連れて行ってもらえず、狭いクレート(移動用のケージ)に閉じ込められています。猫も同様。外に出されるのは、掃除をする1日1回の少しの時間に扱いやすい犬7匹だけ。それも敷地内につながれたままなんです」
おまけに、夏場は冷房すらまともにつけてもらっていなかったという。
「今年の夏は鹿児島もものすごく暑かった。シェルターは基本的には無人で、日中のわずかな時間だけスタッフが掃除と餌やりに来ます。そこで暑いと感じたときだけエアコンをつけ、帰宅する際はタイマーをかけていましたが、それも夜までに切れてしまうので、室内は灼熱です」(斎藤さん)
当然、冬になるとこのプレハブ小屋は極寒の状態になる。前出の鈴木さんは今年初めの寒い夜、犬たちの悲痛な鳴き声を耳にした。
「プレハブにいる犬たちが遠吠えをしていたんです。真っ暗なプレハブの中、寒くて寂しくて鳴いていたんでしょう。その声を聞いたら私、泣いてしまいました……」
そう話し、今でも耳に残って離れない、と涙ぐんだ。
それから半年以上近くたった今、犬たちはというと、クレートの中に閉じ込められっぱなしの環境下で感情を失い、遠吠えする気力すらなくしているという。
「今は車の音が聞こえると、『餌がもらえる! 』と思うのでしょう、一斉に大声で鳴きだします。犬たちが声を上げるのはその時だけ。あとは静かにケージの中で1日を過ごしています。人が来たらみんなめいっぱい鳴くので、その後はみんな、声が枯れています」
前出の斎藤さんはこう言って声を詰まらせる。
そして今年7月下旬、恐れていた事態が起きた。保護されていた犬1匹が亡くなったのだ。
「原因を究明する前にさっさと火葬にされてしまったそうです。亡くなったのはサクラという推定1歳のメス犬です」(斎藤さん)
泡を吹いて死んだサクラ
周囲には日陰もなく、一日中屋根が熱せられたプレハブ住宅は、何も対策をしなければ室温が40~70度になるとも言われている。人間でも危険なレベルで、それは犬たちも同様だ。
「サクラはクレートの中で泡を吹いて死んでいたそうです。具合が悪くても病院にすら連れて行ってもらえていないので、持病についてもわかりません」(同)
斎藤さんによると、サクラは昨年、茨城県の動物愛護センターから引き取られ、このシェルターに連れてこられたという。ようやくクレートの外に出してもらえるようになったのは、今年の5月になってから。
「6月に確認したとき、冬毛から夏毛への生え変わりもうまくいっておらず、どんどん痩せていって、おなかはガリガリでした」
状況から見て、熱中症で痙攣を起こして亡くなったと推測される。
「同じ部屋の犬たちは、暑い部屋の中で苦しみ、そのうち動かなくなって亡くなったサクラをどんな気持ちで見ていたのでしょうか。殺処分を免れたとしても、これはひどすぎると思いませんか?」(鈴木さん)
関係者によると現在、同シェルターにはH氏とともに活動している女性スタッフのSさんが毎日数時間だけ世話に訪れている。
餌は8キロ1000円のドライフード。女性の手で一握りほどの量が1回与えられるだけで、水も1日1回。
動物たちは、クレートの中の敷かれた新聞紙の上で排せつをするので、Sさんが1日1回取り換える。つまり犬と猫は、糞尿にまみれながら1日を過ごしているのだ。
「狭いクレート内で身動きが取れないため、餌や水の皿の中に糞尿が入っていたのを見たことがあります」(斎藤さん)
そんな劣悪な環境の中で、サクラは死んだ。
しつけと称して、真冬に水をかける……
「もっとひどい状況の子もいます。イブという噛み癖のある子です。この子は噛むので掃除も敬遠されていました。かろうじて水と食事は毎日与えられていましたが、排せつ物の溜まった新聞紙は週1回しか変えてもらえていませんでした」(同)
噛み癖は、ちゃんとしつけさえされれば解消される。だが、そのしつけ方法についても疑問が残る。
「H氏は喧嘩をする犬たちに対し、しつけと称して真冬にもかかわらずホースで水をかけて、おとなしくさせていました。噛み癖がある子はしっぽを掴まれ、無理やり離されていたことも。
そのため、しっぽの神経が抜けてしまい、動かせなくなってしまった子もいました。ですが、彼はそれを虐待ではなく、しつけだ、と主張しているのです」(前同)
餌や水を適正に与えない、クレートに閉じ込める、真冬に水をかける……。これらの行為は虐待、不適切な環境下での飼育、ネグレクトで、動物愛護法に違反するのではないだろうか。
H氏に電話で直撃すると……
「シェルターの中は室内に糞尿のにおいが染みついていて、本当にくさい。Sさんは餌と水を上げて新聞紙を変えたらあとは知らんぷり。建物から出て、ずっと携帯でどこかに電話していて見向きもしない……。でも、H氏は動物たちのため、と今でも寄付を集めているのです」(鈴木さん)
そんな状況下から犬たちを救うため、譲渡を希望する人も多かったが、H氏は聞く耳を持たなかったという――。
まさに飼い殺し状態。今後、環境を改善したり、里親に出すことはないのだろうか。
こうした状況をどのように考えているのか、H氏に電話で直撃すると……。
「そういう対応はできないので、お断りさせていただきます」 そう言って通話を切った。
「H氏にはもう動物には関わってほしくありません。一日も早く犬たちを解放してもらいたい」(鈴木さん)
鈴木さんらは再三、鹿児島県の保健所や警察にこの惨状を訴えてきたが、一向に動いてくれないと憤る。そこで複数の有志らは動物愛護法違反の疑いで、同団体やH氏の刑事告訴も視野に入れているという。
動物にとっての幸せとはいったい何なのだろうか。