2022年8月31日 讀賣新聞オンライン
沖縄県・久米島(久米島町)の海岸で7月、絶滅危惧種のアオウミガメ30頭超が瀕死(ひんし)の状態で見つかった。地元の刺し網漁師が網に絡まった個体を引き離す際に傷つけていた。長年の保護で南西諸島(沖縄、鹿児島両県)を回遊するアオウミガメは急増し、漁師らがその弊害に悩む中で起きた事態。豊かな海を象徴する存在でもあり、町や漁協は今月30日に対策協議会を設立し、「共存」へ動き出した。(矢野恵祐)
「身の危険感じ」
多数のアオウミガメが島東部の海岸に打ち上げられているのが見つかったのは7月14日。大半は首元に鋭利な刃物による傷痕があった。「保護する前に満ち潮でいなくなったが、信じられない光景だった」。町の観光施設「久米島ウミガメ館」の塚越佳充主任(45)は島民の連絡で駆けつけ、残酷な光景に衝撃を受けた。
「自分がやった」と名乗り出たのは、久米島漁協所属の刺し網漁師だった。海底に網を張り、引き潮で沖に戻る魚を捕る漁法。漁協の聞き取りに対し、「数頭は逃がしたが、網を外そうとすると暴れた。身の危険を感じ、弱らせて外そうと思った」と説明した。
網に絡まる事例は数年前から報告されていたが、これほどの数は初のケース。漁協関係者は「ウミガメは力が強く、ヒレや鋭い爪が直撃すれば命の危険も。網が破れると、交換に数百万円はかかる」と、漁師の行動に一定の理解を示す。
問題が報じられて町と漁協には苦情が殺到し、漁師たちは刺し網漁を自粛している。かかわった漁師も「もう刺し網はやらない」と話しているという。
もずく水揚げゼロに
アオウミガメは古くから食用とされ、乱獲や産卵地の環境悪化で激減した。1991年に環境省のレッドリストに掲載されて保護の機運が高まり、久米島町も2000年にウミガメ館を開設して保護してきた。
だが、近年はアオウミガメが原因とみられる海草類の食害が深刻化。年間500トンと県内一の生産量を誇った天然もずくは海草「アマモ」に付着して生育するが、アマモが激減し、今シーズンは初めて水揚げがゼロだった。「ここ数年で海が砂漠のようになった」。漁協所属の漁師 伊集(いじゅ)竜太さん(40)は、そう表現する。
環境省によると、00年代以降、南西諸島や小笠原諸島(東京)でアオウミガメの増加が報告されている。
一方、ウミガメ館の塚越主任は「島での産卵数は増えておらず、海草減少や漁業被害との因果関係には不明な点もある。川からの赤土流出や温暖化の影響もあるのでは」と指摘する。
町を挙げて
町では共存に向けた対策の検討が始まった。対策協議会は桃原(とうばる)秀雄町長をトップに漁協や観光協会などと設立し、30日の初会合では、網に絡まった際に複数人で対応する体制作りや、ウミガメが自力で脱出できるような網の開発といった漁協の提案を共有した。
まずは、ウミガメが集まる場所や海草を食べる状況などの情報収集を進めることで一致。漁協は上空からドローンで頭数を確認する調査を始めており、専門家の助言も受けて対策を具体化する方針だ。
漁協の譜久里(ふくざと)長徳参事(43)は「同じようなことがあれば島のイメージがさらに悪くなる。関係機関と協力して共存の道を探りたい」と話している。
食用など個体数調整も
環境省や沖縄県も対策に乗り出したが、解決の道筋は見通せていない。
県はこれまでも漁業法に基づいて食用や水族館への販売目的の捕獲を認め、年間205頭を上限に許可している。ただ、後継者不足や需要低迷で申請通りに捕獲されることはほぼないという。今回の問題で上限引き上げも検討しているが、担当者は「保護すべきだという感覚が浸透しており、効果は未知数だ」と話す。
環境省も同県・西表(いりおもて)島の希少な海草の食害などを受け、食用での活用など個体数の調整も視野に検討を進める方針だ。