2022年7月23日 日刊ゲンダイ
【奇妙?単純? 韓流の方程式】#88
土用の丑の日がやってくる。韓国でも夏に滋養強壮食を食べる習慣があるが、ウナギではなく参鶏湯を食べてスタミナをつける。そして今も補身湯を食べる文化が残っている。いわゆる“犬鍋”のことで、こっちが聞いてもいないのに、食べたアジョシ(オジサン)が自分の精力絶倫ぶりを自慢する。そんなワイルドなイメージがつきまとう料理だ。
文在寅前大統領は大の愛犬家で、大統領府でも複数の犬を飼っていた。それもあってか、昨年、韓国政府は犬食禁止に向けた議論を始めると決定。犬肉食は朝鮮半島の食文化だが、国際社会からの批判に加え、韓国でもペットを飼う人が増えて動物愛護に対する関心が高まっているからだ。実際、犬肉離れは急速に進み、消費量も減少しているという。
たしかに韓国人の動物に対するスタンスは確実に変わったように感じる。古くは“猫”や“黒い犬”が縁起の悪い動物といわれたが、動物愛護団体が特定の動物を敬遠する風潮をなくすキャンペーンを展開。今では悪いイメージを持たれなくなった。
今年放送された時代劇で、馬が撮影のため無理やり転倒させられて死ぬ事故が発生した際は、一斉に「動物虐待」との非難が殺到した。ドラマはしばらく放送の休止を余儀なくされ、再開にあたってはテレビ局が動物の安全を保障するガイドラインを作成している。
とはいえ、犬肉食には伝統があり、それで暮らしている人たちもいるのだ。当然、犬の生産者や料理店は新しい動きに猛反発。「牛や豚は食べるのに、なぜ犬だけがダメなのか!」と怒りを爆発させている。これまでも動物愛護団体が犬肉食への反対デモを行えば、養犬業者らが犬肉を食べて気勢を上げる対抗デモを行ってきた。両者の溝は埋まりそうにない。
■大統領も愛犬家
そもそも、犬肉食の禁止は80年代から断続的に浮上しては立ち消えとなってきた問題。今の尹錫悦大統領も愛犬家として知られるが、この議論に終止符を打てるとは思えない。大統領選では対立候補が「犬の食用禁止」を公約に掲げていたのに対し、尹大統領は食文化にも配慮しながら「食用犬」という言葉を用いて動物愛護団体を怒らせた。
先月、大統領夫人の金建希氏が「犬を食べる国は韓国と中国だけ」と批判的な発言をしたと報じられたが、結論を出せずに数十年が過ぎている。“精がつく”といわれるスタミナ食は頭の痛い問題でもあるのだ。
(児玉愛子/韓国コラムニスト)