福井県警が、警察犬の「なり手不足」に頭を悩ませている。高齢化社会の進行に伴って行方不明者の捜索など出動機会は増加傾向にあるものの、警察犬に適した大型犬の飼い主が少ないことから年々減少。特定の犬や飼い主の負担感が高まっている。県警の担当者は「制度を維持するためにも、興味がある飼い主は積極的に応募してほしい」と呼びかけている。(長沢勇貴)
「座れ」「待て」――。11月に県運転者教育センター(坂井市)で開かれた2021年の警察犬を決める審査会。シェパード、ラブラドルレトリバーなど5頭が参加し、指示に従って座ったり障害物を飛び越えたりできるかや、臭いを頼りに足跡や遺留品を見つけられるかを確認した。福井市の女性会社員は数年前から審査会に参加。「自分の飼い犬が社会に貢献できると思うとうれしい」とやりがいを話す。
人間の3000倍以上とされる鋭い嗅覚を生かして活躍する警察犬。近年は行方不明になった高齢者らの捜索が主な任務となっており、昨年の出動件数は31件と5年前の17件からほぼ倍増。今年も、10月末現在ですでに29件と昨年に迫る勢いだ。
17年夏には、家族から捜索願が出された越前市の高齢男性の捜索に出動し、わずか約20分間で、空き地で倒れているのを発見。遅れていれば、熱中症で命の危険もあったという中での「ファインプレー」だった。県警鑑識課の担当者は「容疑者の捜査などの分野では科学捜査の進歩が著しいが、行方不明者の捜索については、捜索先の絞り込みなど警察犬に頼る部分がまだ多い」と強調する。
一方、なり手不足は深刻だ。16年に14頭いた警察犬は、20年には8頭に減少。飼育の負担が大きいことなどから、警察犬に適した大型犬の飼い主が少なくなっていることが背景にあるという。審査会に参加した女性は「仕事をしながら急な出動に対応することに加え、大型犬の練習場所を見つけるのも一苦労」と漏らす。
県警は、飼育にかかる費用の補助や出動の際の謝礼といった飼い主の負担軽減につながる取り組みを始めており、鑑識課の仲保雄一次席は「警察犬制度の維持には県民の協力が必要」とした上で、「大型犬だけでなく、シバ犬などの小型犬でも指導次第では警察犬になれる。興味のある飼い主は県警の鑑識課まで連絡してほしい」としている。
◆警察犬=警察が直接、飼育・管理する「直轄犬」と、民間で飼われている犬に要請して出動してもらう「嘱託犬」の2種類がある。県警はすべて嘱託犬。直轄犬を持つのは、全国の都道府県警察の半数程度で、警視庁や大阪府警など都市部が多い。