休診日も保護動物を治療
「殺処分ゼロ」という言葉を聞いたことがありますか?国内で殺処分される犬や猫たちは、1年間で約4万匹にも上ります。「殺処分ゼロ」を目指して動物の保護活動に尽力している獣医師、太田快作さん(40)に話を聞いてきました。
被災地にも通う
太田さんは、2011年に開業した「ハナ動物病院」(東京都杉並区)の院長として、毎日40〜50件の診察をこなす忙しい毎日を送っています。それに加えて、休診日には、動物の保護活動をするボランティア団体への協力も行なっています。
特に野良猫は、放っておくとどんどん子どもが生まれます。野外の猫は飢えや病気のため早く死んでしまったり、動物愛護センターに捕獲されて殺処分されたりします。また、飼う動物の数が増えすぎて飼い主が対応できなくなってしまう「多頭飼育崩壊」でも、多くの命が失われがちです。
各地のボランティア団体などは、不幸な動物を減らすため、保護した動物に避妊・去勢手術を施したり、病気の治療をしたりします。そのうえで、人に飼われるのは難しいと判断した成猫などは、手術後に路上に戻し、それ以外の犬猫は「譲渡会」などで飼い主を探します。
太田さんは、こうした活動を行う個人や団体に頼まれて、埼玉県や千葉県、神奈川県などに出向き、保護された動物の治療や手術をしていて、完全な休日はあまりないそうです。
11年に東日本大震災が起きた時は、地元の人などから頼まれ、動物を助けるために福島県に行き、その後も時々通っています。「最初は放射線が怖かったけれど、ボランティアの人が行っているんだから、獣医師の自分が行かないわけにはいかないと思って」と太田さんは笑います。
猫や犬の避妊・去勢手術の一般的な料金は1万〜数万円。手術に対する自治体などからの補助があっても全てはカバーできず、保護団体の人たちは自己負担したり寄付を集めたりしてまかなっています。太田さんは、保護団体から頼まれた野良猫などの手術については、費用を取らないことも多いといいます。
愛犬との別れ
「動物に関する依頼は絶対に断らない」のがモットーの太田さん。その傍らには、北里大獣医学部の2年生だった時に青森の保健所で出会った愛犬花子がいつもいました。
太田さんは大学で、行き場のない動物を保護して飼い主を探すサークル「犬部」を設立。当時住んでいた部屋には、いつも15匹ほどの保護動物がいたそう。やんちゃな動物も、花子から厳しくしつけられて、おとなしくなったといいます。
大学卒業後、動物病院などで働いてから出身地の杉並区で開業した太田さんにずっと寄り添い続けた花子を病魔が襲います。太田さんは、負担のかかる治療は行わず、家ではもちろん、病院への行き帰りも一緒に過ごしました。花子は昨年9月、静かに息を引き取りました。
太田さんの活動ぶりは、テレビのドキュメンタリー番組でも紹介されました。それに対して太田さんは、「獣医師として当然のことをしているだけ。僕が注目されるのは、やっている人が少ないことの裏返しで、違和感がある」と言います。
「犬や猫飼って」
太田さんが目指しているのは、「殺処分ゼロ」。「ペットは家族と言いながら、多くの犬猫が殺されている。行政も獣医師も、殺処分ゼロ実現に向けて努力すべきだ」と強調します。
動物保護のため、中高生ができることを聞いてみました。「犬や猫を飼ってほしい。保護動物を一般家庭で預かる『預かりさん』という仕組みもあります」と太田さん。「家庭で暮らした動物は、表情が変わってかわいくなるので引き取られやすくなる。そして、動物保護についてSNSなどで発信してくれれば、大人の意識も変わるかもしれない」と話してくれました。
太田さんのように、動物のことを一番に考えて活動する獣医師さんがいることに感動しました。私たちも、自分にできることをやっていきたいと思いました。
(高1・時田莉湖、中2・三代和香、中1・都島歩記者、撮影=三浦邦彦)