犬や猫「実験用払い下げ」の歴史を振り返る 2005年度まで生体譲渡 | トピックス

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2020年7月17日 sippo







6月1日、改正動物愛護法が施行された(8週齢規制、動物取扱業の飼養保管基準は来年、マイクロチップについては再来年の施行予定)。今改正では、動物殺傷罪の罰則が「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に強化されたことや、ペットショップやブリーダーなどの動物取扱業の規制が強化されたことが注目されている。


この改正動物愛護法の施行に伴い、「犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について」(以下、「引取りの措置」)という告示に記されていた、「死体の払い下げ」に関する一文が削除されるという改正もなされた。これはJAVAが熱望していたものだ。 この「引取りの措置」という告示は、自治体が犬猫の引取り等の業務を行う上でどのように対応すべきかが記されているもの。つまり、これらに盛り込まれる内容によって、自治体が犬猫を引き取る際の判断や引き取った動物の収容状況、殺処分、新しい飼い主を探す業務などに影響を与える重要なものなのだ。

かつては生きた犬猫が実験施設に

自治体の動物管理センターなどの施設に収容された犬猫が、大学や研究機関などに実験用として譲渡される「実験用払い下げ」。日本では、長年にわたり行われてきた。JAVAは、生体、死体を問わず、飼い主に見捨てられたり、殺処分されるといった本来あってはならない行為の上になりたっているこの払い下げに対して反対の立場をとり、その廃止を求めてきた。 生体の実験用払い下げは、1995年度には51自治体で行われていて、21,118匹もの犬猫が実験施設に送られた(1996年 JAVA調査)。例えば、神奈川県では大学や公立の研究機関以外に製薬会社など民間の研究所にも提供していた。1972年に始まり、1995年度をもってやっと廃止となったが、頭数は減少していた廃止の前年度でも553匹に上った。 滋賀県は滋賀医科大や京都大学など4研究機関へ払い下げていた。1991年には収容された犬猫の中で若くて健康で人によくなついている567匹が送られ、1997年の廃止まで約30年続いた。 大阪府では国立循環器病センター(現国立循環器病研究センター)や大阪大学医学部など7研究機関に払い下げ、国立循環器病センターでは臓器移植などの研究に犬を使い、脳神経系の実験に猫を使っていた(1993年廃止)。 群馬県の犬の頭数は、2001年度の全国の犬の払い下げ総数2,368匹(同年度環境省データ)の約5分の1を占める453匹と多かった上に、廃止をしたのが2004年と非常に遅かった。県は群馬大学医学部の敷地内で飼い主から犬猫を引き取り、その場で大学関係者が実験に使いたい犬を選別していたのだ。 犬猫たちは、飼い主に捨てられ、動物管理センターなどに収容されるという辛い体験だけでなく、その後、動物実験に使われ、苦痛と恐怖を味わわされたあと殺されるのだ。自治体の施設で殺処分されるのも当然悲惨であるが、それより多くの苦しみを受けることになる。 この生体の実験用払い下げは、国民の反対の声が高まり、2005年度をもって全国で廃止となった。非常に長い年月を要したが、この廃止実現は大きなものであった。そして、2012年の前回の動物愛護法改正の際、「引取りの措置」にあった、払い下げの根拠である「動物を教育、試験研究用若しくは生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供する者への譲渡し」の一文が削除されたのだ。

今改正で「死体の払い下げ」の根拠も削除に

一方、死体の払い下げについては、同じく「引取りの措置」の中に、殺処分した犬猫などの動物の死体を「化製その他の経済的利用をしようとする者」への払い下げを可能にする一文がある。前回改正では、環境省が全国自治体における実施状況を把握できていないという理由でこの一文の削除が見送られた経緯がある。 そのため当時JAVAが、全国の都道府県・指定都市・中核市に対して調査を行ったところ、払い下げを行っているのは横浜市、鳥取県、奈良県の3自治体のみと判明した。 横浜市は犬の死体を、鳥取県は犬猫の死体を教育・試験研究用に、奈良県は三味線用に猫の死体を民間の業者に提供していた。その後、2013年11月までに横浜市と鳥取県は廃止をし、奈良県も2012年度以降、実績はない。つまり全自治体において行われていない、事実上、廃止と言える状況となった。そのため、今改正ではこの一文を削除できない理由はないとしてJAVAは環境省に働きかけ、削除が実現した。 「どうせ殺処分するのだから」「死体だから」と犬や猫を利用しようという考えは、放棄した飼い主の罪悪感を薄めることにもなる。これでは繰り返し持ち込むような常習者をなくすことができないばかりか、殺処分の減少や国民の動物愛護意識の向上を妨げてしまう。 行政や動物保護団体が引取りや殺処分を減少させようと懸命に取り組んでいるなか、無責任な飼い主の存在を維持させるようなこの悪習は断じて許されず、二度と繰り返してはならないのだ。