【猫カフェ崩壊ルポ】コロナ閉店で殺処分危機、不衛生でヒトから感染…ネコの命が危ない! | トピックス

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2020年4月22日 @niftyニュース








新型コロナウイルスの感染者数は今なお増え続けているが、ウイルスの猛威が襲いかかるのは人間だけではない。動物たちも生命の危機に瀕しているのだ。

「ドイツ・ノイミュンスター市の動物園は、新型コロナウイルスによって休園に追い込まれましたが、経営危機の対策として、『最悪の場合』、動物の一部を殺処分して、大型肉食獣などに与える餌にすることを検討せざるを得なくなりました。入場料収入がゼロとなり、飼料も底をつきそうな状態で、寄付金のみで操業している状態です。

 殺処分リストにあるのはヤギやシカなどで、食べさせるのはオオヤマネコやワシ、ホッキョクグマなど。餌として与えられることになります。幸い、同動物園は4月20日より再開の見通しが立った。ただ、日本でも動物への様々な“コロナ被害”はこれから始まるのかも知れません」(動物保護活動関係者)

 この“ドイツ動物園殺処分リスト”のニュースは世界中で話題となった。日本でも多くの動物園が休業に入ったが、ドイツの動物園のような例は今のところ見られない。

「危惧すべきは猫カフェでしょう。大手猫カフェは多くが休業に入りました。でも、猫たちへの餌代や医療費はかかる。ドイツの動物園と同じ状況なのです。猫カフェは入場料でもっているわけで、休業と外出自粛であっという間に経営破綻してしまう。そうなったときに猫たちの命が危険に晒される可能性は高くなると思います」(同前)

 不特定多数の人間が猫たちと接触する「猫カフェ」。都内の大手猫カフェには休業に入った店が多いが、全国には600店舗以上の猫カフェがあり、個人経営の店を中心に営業を続けている店舗も少なくない。コロナ禍の猫カフェを取材した。

■「猫をちゃんと守ろうとしたら…」

 神奈川県にある保護猫カフェ「和猫かふぇ」では、徹底的なコロナ対策を行ってきた。保護猫カフェとは、一時的に保護されている捨て猫や野良猫などの「保護猫」と触れ合える猫カフェのことだ。譲渡(里親マッチング)を行っている店が多く、新しい飼い主探しの場となっている。

「和猫かふぇ」は当初、HPでコロナ対策についてこう掲示していた。

《猫達を感染症から守る目的で、開店当初から毎日の店内清掃には次亜塩素系消毒薬を使用し、次亜塩素酸入り加湿機とオゾン発生機を使用して空気の殺菌清浄を行なっております。これは、インフルエンザ、ノロウイルス、新型コロナウイルスにも効果があると言われているものです》

 だが、店主の柳澤由美子氏はそれでも不安を感じ、3月末での休業を決断した。

「猫の安全を考えて3月上旬から入れ替え制の1組限定貸し切りにしていました。お客さまにはマスク着用を義務付け、手荷物やコート類はお預かりして、入店・退店時の手洗い、アルコール消毒、貴重品やスマホなどを持ち込む際にはすべてアルコール消毒をしてきました。それでも3月末からお店を休業しています。

 たとえば、お客さまに手を洗っていただいても、猫カフェに来る途中で服に誰かのくしゃみの飛沫を浴びてしまっている可能性もあります。猫と触れ合う中で、猫が手を舐めたりすることもありますが、猫をちゃんと守ろうとしたら、今後は猫の抱っこ禁止、お触り禁止とし、長い棒のねこじゃらしで遊ぶだけというかたちになってくるかもしれない。お客さまとのスペースを分離して、柵の向こうにいる猫を眺めるだけということだってあり得るのです」

■世界各地で明らかになる「飼い主からの感染」

 この「和猫かふぇ」のように、猫の安全にまで目配りが出来ている“意識の高い”店は少ない。だが海外に目を向ければ、世界では「飼い主から猫」へのコロナ感染が次々に明らかになっているというのが現実だ。

 ベルギー保健当局は3月27日、世界で初めて新型コロナウイルスに感染した飼い猫の事例を発表。地元メディアによると、飼い主から感染したとみられ、猫は下痢、嘔吐、呼吸困難などの症状を示し、便から新型コロナウイルスを検出したという。猫への感染事例は、同月31日に香港でも報じられている。

 4月5日にはペット以外で初の動物への感染も明らかになった。アメリカ農務省の発表によると、ニューヨークのブロンクス動物園で大型ネコ科動物であるマレートラから新型コロナウイルスの陽性反応が出たという。4歳の雌のマレートラ「ナディア」をはじめ、きょうだいの「アズール」のほか、アムールトラ2頭、アフリカライオン3頭にも、乾いた咳と食欲低下の症状があった。無症状感染者の飼育員から感染したとみられている。

 このような事態に、ベルギー保健当局は特殊なケースと前置きしたうえで、「ペットへの感染を防ぐため、ペットとの濃厚接触は避けて、顔などを舐めさせる行為はさけるべき」と注意喚起している。

 国内でも、東京都獣医師会は、新型コロナウイルスの感染者に対して〈ペットの体表にウイルスが付着しないようにするために、療養中の部屋にペットを出入りさせないように〉と呼びかけている。

■「手洗い」徹底できていない店も

 だが、取材班が4月10日~17日に複数の猫カフェを取材してみると、客の「手洗い」すら徹底できていないという店がいくつもあった。


都内で複数の店舗を展開している某大手チェーンの猫カフェでは、入室時には店員が「アルコール消毒をお願いします」と呼びかけていた。だが、特に厳しく義務づけられてはおらず、いい加減にアルコールで指先を少し濡らす程度でも咎められることはない。なにより、ウイルス対策に効果があると言われる、流水をつかった手洗いを指示されることはなかった。コロナに負けるなと有名タレントたちが「正しい手の洗い方」をYouTubeの動画で広く啓蒙している時節柄を考えれば、店舗側の危機感はかなり低いと言わざるを得ない。

 猫たちが待機する大部屋に案内されると、扉の前には20匹を超える猫たちが待ち構えていた。来客が少ないため、久しぶりにエサがもらえると集まっているのだ。女性従業員にコロナ対策を聞くと、「店内が過密状態にならないように一応、入店人数を通常の半分以下に制限しています」。あくまでヒトヒト感染についての配慮のみだった。

 客はマスク着用が基本だが、店員はフロアにいないため、マスクを外しても注意されることはない。

 ネコを抱いたり撫でたりするのも、通常通り可能。オプションとして、猫たちにおやつを直接与えることができるのもいつも通り。素手でスプーンを使って餌を与えるのだが、見守るスタッフもいない。ネコは客の手を舐めたりもしている。

 もう一軒、個人経営の老舗の猫カフェを訪ねた。30平米ほどのビルの一室に、20匹近い保護猫たちがくつろいでいた。

 1人で経営しているという女性店主に、猫が新型コロナウイルスに感染しないために、どんな対策をとっているかを聞いた。

「猫が感染するのはレアケースだと思うのですが、対策として室内の換気をして、お客さんにはアルコール消毒による手洗い、スリッパへのはきかえを徹底してもらっています。うちでは元々、致死率が高い『猫パルボウイルス』への感染を避けるため、ウイルス対策には力を入れていました。無害な次亜塩素酸水で毎日部屋を消毒していて、あらゆるウイルス除去に有効なオゾン発生機を3年前から3台設置しています」

 個人経営の小さな店舗では、それ以上の対策は難しいのが現実だという。1軒目の大手猫カフェに比べれば、店員の目が行き届いている。だが、残念ながら、流水での手洗いは義務づけられていなかった。手のアルコール消毒と、靴からスリッパへのはきかえ、マスク着用は徹底されていた。

■カフェ営業危機で保護猫の行き場が…

 このような対応で、猫たちをウイルスから守ることはできるのか。日本ペット診療所院長で獣医師の山川晃平氏が解説する。

「猫カフェでは、とにかくお客さんによく消毒してもらうしかないでしょう。ウイルスはやはり手に付着するケースが多いので、手洗いと消毒を徹底する。お客さんの体や服に付着していたウイルスが、猫カフェの猫へ感染することはあり得ます。人から猫に感染した事例はまだ少ないですが、何より感染させないことが大事です」

 一方、ウイルス感染のほかに、猫カフェにはもうひとつの切迫したリスクがある。冒頭のドイツの動物園と同様、経営難によって、たくさんの猫の命が危険に晒される可能性があるのだ。

 前出の柳澤氏が話す。

「うちの店内には8匹の猫がおり、3分の1が里親を探している猫です。(行政による)殺処分を防ぐために、これまではお店の猫の里親が決まったら、新規の猫を動物愛護センターに引き取りに行っていたのです。ですが、現状ではお店を開けられないので新しい猫を迎え入れることはできません。休業していても猫の医療費、ご飯代はかかりますので、物資の支援をお願いしたりして支援者から寄付をいただいております。今の状況が長引くと、お店を閉めるということも考えないといけない厳しい状況です」

 これまでは保護猫カフェや、ボランティアなどによる保護・譲渡活動が、猫の殺処分を減らすことに大きく寄与してきた。だが、コロナ休業で保護できる猫の数が減る可能性があるのだ。

■コロナ後も同じ業態で続けられるのか

 一般社団法人「CATS&DOGS動物福祉協会」代表で、「CATS&DOGS CAFE」を経営する吉田智恵子氏も、4月1日に店舗の営業休止を余儀なくされ、保護活動の資金繰りに困っていた。そんな中で、同協会はクラウドファンディング「Save the Cat」で活動資金を募ることを始めた。

「20匹の保護猫がいますが、休業中も家賃や光熱費に加えて、治療が必要な猫もいるため医療費がかかります。営業していたときは猫カフェの売り上げや募金で補ってきましたが、これらの収入が失われることになり困っていました。しかし、猫や犬を引き取ってくださった里親さんたちが4月14日にクラウドファンディングを立ち上げてくださったのです。個別に寄付をしてくれたりもして、なんとか持ちこたえています。立ち上げから1週間も経たないうちに、2カ月分の活動資金となる目標金額70万円を達成することができました。本当に感謝しております」

 だが、店舗営業を再開できたとしても、これまでのような業態を続けられるとは考えていない。

「休業前のように『完全予約制』を続けて、さらに何かあったときのためにお客さんの連絡先をお聞きして、店内が“3密”にならないようにするなど、万全の対策を心掛けなければなりません」(同前)

 いま世界中で新型コロナウイルスのワクチン開発が進んでいる。だが、開発には12カ月から18カ月かかるとも言われている。動物と人間がこれまで通り触れ合えるようになるには、もう少し時間がかかると覚悟すべきなのだろう。

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))