奄美大島の「ノネコ管理計画」に対し、動物保護団体らから反発の声が上がっている。環境省が2018年から2027年までの対応方針をまとめた「ノネコ管理計画」では、奄美大島に生息するアマミノクロウサギなどの在来種の保護のため、ノネコの駆除が急務だとしている。
ノネコは捕獲し、飼い主が確認出来た場合は引渡、それ以外は可能な限り飼育希望者への譲渡に努めるが、できなかった個体は「できる限り苦痛を与えない方法を用いて安楽死させる」と殺処分する。
ノネコが在来種12種を捕食 環境省「計画書は様々な意見を総合的に判断して作成」
同管理計画では2027年までの計画がまとめられている。奄美大島にノネコ(野生化して山林などで暮らしており、野生動物のみを食べて生きている)は2015年時点で約600~1200頭生息。絶滅危惧種で国の特別天然記念物に指定されているアマミノクロウサギなどの在来種を捕殺しているという。
奄美大島には本来、肉食性哺乳動物はおらず、ネコは人為的に持ち込まれて野生化したとされている。1979年、ハブとクマネズミ対策としてマングースが持ち込まれ、島内の生態系に大打撃を与えた。
駆除を続けた結果マングースは減少し、近年、在来種は回復傾向にある。環境省によると、奄美大島のアマミノクロウサギの生息数は2003年時点で約2000~4800頭。2015年時点で約1万5000~3万9000頭まで回復したと推定している。
環境省那覇自然環境事務所の担当者は、
と語る。アマミノクロウサギは増加しているものの、「アマミノクロウサギに限らず、在来種がノネコに捕食されています。個体減少に影響を与えていること自体が問題と考えています」と話す。
実際、ノネコの糞からケナガネズミ、アマミトゲネズミ、アマミノクロウサギなど在来種が計12種類、捕食されていることがわかっている。
殺処分以外の方法はないのか。環境省とともに同計画書を作成した鹿児島5市町村では"ノラネコ"のTNRを行っている。TNRとは、飼い主のいないネコを捕獲し、避妊・去勢手術を施して元の場所へ返すことを指す。
人間の生活圏内に生息するノラネコと違い、森林に生息するノネコは有害鳥獣として駆除できる。法令上、ノネコとノラネコに明確な線引きはないが、同担当者は「ノネコにTNRは行いません」という。
計画では環境省が島内に設置した監視カメラの映像から、希少種の被害が大きい地域などで年間300~360匹を目標にノネコを捕獲する。同計画は2018~2017年の10年間に渡って行われ、単純計算で3000匹以上が捕獲される計算だ。
「ノネコ管理計画はデータもわざと昔のものを使用することなど含め、根拠が曖昧」

佐上氏「環境省はこの写真を使いすぎている。ノネコが被害を加えていることの証明にならない」(画像は環境省サイトをキャプチャ)
こうした状況に対し、猫の殺処分ゼロを目指して無償でTNR活動を行う公益財団法人どうぶつ基金が反対を表明。「ノネコ管理計画について科学的調査に照らして妥当性を欠いている」と批判する。
同団体理事長の佐上邦久氏は、キャリコネニュースの取材に、
と語る。アマミノクロウサギの増加は、マングースの駆除が功を奏したと考えられるという。
また環境省は2003~2015年に奄美大島で「ノネコ捕獲モデル事業」を実施。同事業で2012年7頭(全頭安楽死)、2013年には6頭(全頭譲渡)捕獲している。学術研究や生態系保全の目的で2007~2013年度にもノネコの捕獲を実施しているというが、佐上氏は捕獲頭数が少ないことから、「ネコは全く脅威になっていません」と訴える。
奄美の生態系については「文献によると、遅くとも1850年ごろにはネコは奄美に生息していました。奄美では食物連鎖の頂点にハブがていて、動物病院にはハブに噛まれたネコがよく運ばれます。アマミノクロウサギ、ケナガネズミとともに、生態系の中にすでにネコが組み込まれているんです」と主張する。
どうぶつ基金は、環境省が今年6~7月に実施した「奄美群島国立公園奄美大島地域及び徳之島地域管理運営計画案に係るパブリックコメント」に、ノネコ管理計画の反対意見を送るよう呼びかけた。
「税金で何千頭のネコを殺すことは本当に必要なのでしょうか」
ただ、環境省国立公園課担当者は「今回募集したパブリックコメントは『公園事業及び行為許可等の取扱いに関する事項』に関することでした」と明かす。奄美大島と徳之島における建造物などについての許可・届け出、公園事業の取り扱い方針について意見を募集していた。
当然のことながらノネコの駆除にも費用がかかっている。佐上氏は、
と疑問視している。