2017/5/12 YOMIURI ONLINE
◇雲南の飼い主と元気に生活
◇散歩好きドライブお気に入り
熊本地震で被災した犬2匹が県出雲保健所(出雲市)を通じて、雲南市の2家族に引き取られ、間もなく1年を迎える。新たな飼い主のもとで元気に暮らす2匹のうち、雌犬・エミリー(推定2~3歳)は、地震の約半年前に飼い犬を亡くした同市吉田町曽木の会社員、渡部清さん(66)と妻の順子さん(61)の心をいやしている。(佐藤祐理)
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渡部さん夫婦と一緒に、のんびりと過ごすエミリー(雲南市吉田町曽木で)
エミリーは2014年8月に、熊本市動物愛護センターに保護された雑種犬。16年4月の熊本地震の際も、同センターに収容されていた。
地震後、被災者のペットの受け入れが必要になったことから、同センターは環境省を通じて、他の自治体に震災前から保護していた犬29匹と猫2匹の受け入れを依頼。島根県では、同保健所が2016年4月28日にエミリーと雄のソアラ(推定4~6歳)を引き受け、飼い主を募っていた。
犬好きの渡部さんは、熊本から来た被災犬の存在を知り、16年5月に同保健所を訪ねた。15年11月に、9年半をともにした雑種の雄犬・ゲンが死んだばかりで、保護犬にも関心があった。
ソアラは飼い主が決まっており、エミリーの様子を見た。ケージ越しにペロペロと渡部さんの手をなめる様子に「なついてくれた」と感じた。中型で茶系のエミリーにゲンの姿が重なり、「熊本の人にも喜んでもらえると思う。最後まで責任を持って面倒をみたい」と思った。
その後、保健所などから適切な飼い方の講習を受け、16年5月22日、エミリーは渡部さんの家族の一員になった。それまで「エメリー」と呼ばれていたが、発音しやすいようエミリーに変えた。
エミリーはすぐに渡部さんたちに甘えた。散歩が好きで、渡部さんが犬小屋に行くと、エミリーはリードがつるしてある方向を見つめる。ドライブもお気に入りで、一緒に車に乗り込み、公園や買い物にも出かける。カブやリンゴが好物で、この1年で体重は9キロ増えて23キロになった。
かつては両親や3人の子どもら家族9人でにぎやかに暮らしていた渡部さん。親をみとり、子どもは独立した。夫婦の暮らしに潤いを与えてくれたゲンの死後はさみしさが募った。わずかなことで順子さんと口げんかになりそうなこともあったという。「エミリーが来てからは話題も増えた。不穏の種はエミリーが食べてくれている」と笑う。
順子さんも「まるで娘が1人増えたよう」と喜んでいる。「夫婦で飼う最後の犬になるかもしれないのでけががないように、長生きしてほしい。自分たちもエミリーのために元気でいたい」と語る。
2人とも、エミリーを通して被災地に思いをはせたり、自身が被災した時の避難方法などを考えたりするようになった。順子さんは「責任を持ってエミリーの世話をしながら、仮設住宅で暮らす熊本地震や東日本大震災の被災者のことを忘れずにいたい」と話している。