sippo 2/27(月) 12:23配信
「ネコノミクス」という言葉が生まれるほどの
ネコブームの一方で、全国で約6万7千匹が
殺処分されるという現実。これを減らそうと
奮闘する人たちがいる。
預かりボランティアがピアノ講師だったことから、
ピアノ、フォルテ……などの仮の名がつけられた
きょうだいたち
「あんたらがいるから、ネコが増えるんだ!」
ネコを殺処分から救う活動をする
ボランティアは、地域住民からこんな
罵声を浴びることがあるという。
ボランティアが保護したネコは健康診断を
して去勢や避妊手術を行い、里親を探す。
人に慣れそうなネコは訓練するが、
難しそうなネコは印をつけて、元いた
地域に戻す。保護するにはまず餌付けして
なつかせなければならないのだが……。
生後3カ月で、一緒に引き取られたピアノ
(右、現在はチェリー)とフォルテ(同ベリー)姉妹
理解を得る難しさ
野良ネコ保護の相談や指導、殺処分前の
ネコの動物愛護センターからの引き受け
などをしている、「ねこひと会」代表、
松尾ゆきこさん(54)は言う。
「無責任にエサだけ与える『エサやりさん』
と保護ボランティアは違います」
外でエサを与えるときは、食べ終わるのを
見届け、住民に迷惑がかからないよう、
片づけや清掃までするよう、指導して
いるのだが、冒頭のように怒る人が
いるのは、こうしたボランティアの地道な
努力が理解されていないのが一因だ。
有志からの寄付金でキャットフードや
トイレ砂、病院代などの費用をまかなう。
行政から補助金を支給されていると
思われがちだが、実際はすべて自腹だ。
それでも彼女たちが保護活動を
やめないのは、ひとえに不幸なネコを
これ以上増やしたくない一心からだという。
東京・中野にあるトリミングサロン
兼バール「スクウ」には、日替わりで
保護イヌやネコが、“出勤”してくる。
ペットを飼いたくても飼えない人や、
「保護イヌ・ネコって何?」と思う人が、
気軽に触れ合える場所にもなっている。
サロンを経営するのは、甲本永久さん
(31)と樋燈灯さん(29)。2人は、一般的な
保護団体が引き取らないような、高齢・病気・
離乳前など、手がかかるイヌ・ネコも
受け入れている。
「自分はアニマルトレーナーの資格も持って
います。たとえ暴れるクセがある動物でも、
ケアできるんです」(甲本さん)
保護動物は人と暮らせるように訓練して
から譲渡する。他の団体と比べると、
スクウの譲渡先の選定基準は緩やかだ。
非常時に託せる人がいないという理由で、
多くの保護団体では単身者を里親として
敬遠するが、スクウでは譲渡することがある。
たとえば、LGBTの中には、パートナーが
いることを隠している人もいる。
「単身者の方にも、しかるべき飼い方が
できそうであれば、お譲りしています」
(樋さん)
飼いやすい保護猫
実際に暮らして無理だと思えば、スクウに
戻すこともできる。厳しい基準で安全を
担保するよりも、幸せな生活を送る
チャンスを増やしたいと考えているからだ。
その代わり、対策は万全だ。万が一
譲渡先を脱走したり、捨てられたりした
場合に備え、保護したイヌ・ネコすべてに
マイクロチップを埋め込んで登録。
最終的にはスクウに戻ってくるように
しているという。
2人の願いは「もっと多くの人に、気軽に
保護動物との暮らしに挑戦してほしい」と
いうこと。実は健康管理もしつけもできて
いる保護イヌやネコほど、飼いやすい動
物はいないという。
殺処分されるイヌは5年前と比べると7割減、
ネコも半分以下にまで減った。殺処分ゼロを
目指す行政や自治体が増えてきたのは、
こうしたボランティアが地道に続けて
きた活動の結果でもある。
これから動物を飼おうという人は、
ペットショップを訪ねる前に、譲渡会や
保護団体での出会いも考えてみてほしい。
(AERA増刊「NyAERA」から
/文・浅野裕見子/写真・松尾ゆきこさん提供)