毛皮ブーム再来 環境改善うたうミンク飼育場のいま | トピックス

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日経ナショナル ジオグラフィック社 2016/9/4


ポーランドの飼育場で毛皮用に飼われるミンクは、
約6~8カ月の一生をこのケージ内で過ごす。
毛皮動物の飼育環境の改善を目指して厳しい基準が
新たに設置され、ヨーロッパなど一部の地域では、
そうした基準を守る毛皮生産者も現れている。
(Paolo Marchetti/National Geographic)


 毛皮ブームが再来している。
ファッション界に毛皮への逆風が吹き荒れた
のは過去の話だ。かつて「毛皮を着るくらい
なら裸でいい」という反毛皮キャンペーンの
広告を飾ったトップモデルたちも、今では
毛皮のモデルを務めている。もはや
「そのタブーを乗り越えた」と、カナダ、
ノバスコシア州のミンク生産者
ダン・マレンは言う。

■ガス室に送られるミンク

 毛皮生産のさかんなノバスコシア州に
あるマレンのミンク飼育場を訪れた。
彼のミンクがどう生き、どうやって
死んでいくのかを見せてもらう約束
だった。

 マレンが育ったのは旧来のミンク飼育場
だったが、彼自身がこの事業を始めたとき、
現在のヨーロッパで義務づけられている
ような大きめのケージを導入した。
作業員が1日に数回、科学的に調合
された餌(見た目は生のハンバーグに
似ている)を、コンピューターの計算に
従って分配していく。ケージの下の溝に
たまった糞や尿は自動的に清掃され、
肥料にするか、バイオガス発電に
利用される。

 改善を進めたのは、主として動物愛護を
訴える活動家からの圧力に応じるためだ。
だが結果的に、こうした変化は
毛皮生産者にも恩恵をもたらしている。
ケージに施されたさまざまな改善が、
動物のストレス軽減に役立ち、毛皮の
質の向上につながるからだ。かくして
毛皮業界では、かつての“敵”に
押しつけられたはずの改善策を、
今では自慢の種にしていたりもする。

 もちろん飼育された動物たちはいずれ
死ぬ運命にある。飼育場でミンクを
殺す作業を見学した。作業員がケージを
回り、1匹ずつしっぽの付け根をつかんで
持ち上げる。大半はそうした扱いに慣れた
様子で、たまに金切り声を上げるものも
いるが、それも一酸化炭素のガス室に
送り込まれるまでのこと。ミンクは
1分以内に意識を失い、数分後には
死んでいた。

 「ほかの家畜が殺されるときは、
たいてい何百キロも離れた食肉処理場
までトラックで運ばれます。作業自体も
血まみれのプロセスです」とマレンは言う。
「うちの方法は、今ある家畜の殺し方と
しては、最も動物思いのやり方ですよ」。
その翌日に見学した処理プラントでは、
機械がミンクの死骸から皮を切り離し、
ひとつながりにはぎ取っていた。



一酸化炭素で殺されて標識を付けられたミンクが、ローラーコンベヤーに載せられ、皮をはぐ機械へと運ばれていく。残りの死骸は肥料に加工する以外にはほぼ使い道がなく、廃棄物用のコンテナに捨てられる。毛皮が厚くなる秋、ポーランドにあるこうしたミンク飼育場では1日に数千匹のミンクを処理する。(Paolo Marchetti/National Geographic)

■私たちはどう受け止める?

 毛皮復活の流れをもたらした要因の一つは、
毛皮業界が外部からの批判を受け入れ、
飼育環境の改善などを進めてきたことだろう。
中国、韓国、ロシアの新興富裕層による
需要の増大も強力な追い風となった。

 取引される毛皮の大半は、飼育された
ミンクやキツネなどのものだ。
その生産量は1990年代の2倍以上となり、
2015年には約1億枚に達した。わな猟に
よる野生のビーバー、コヨーテ、
アライグマ、マスクラットなどが例年は
数百万枚。このほか牛や羊、ウサギ、
ダチョウ、ワニ類も食肉と皮革の供給源と
なっている。

 毛皮人気の復活を、私たちはどう
受け止めるべきなのだろう。動物の権利の
擁護者たちが主張するように憤慨すべき
なのか? 毛皮業界が進めてきた飼育環境の
改善を、私たちは称賛するべきなのだろうか?

 実際には、大半の人々は毛皮製品など
買ったこともないし、おそらく今後も
買うことはないだろう。その一方で、
私たちのほとんどは肉を食べ、ミルクを飲み、
革靴を履き、さまざまな形で動物からの
搾取を続けている。人間が昔から行ってきた
その営みの規模に比べれば、毛皮など取るに
足らない存在だ。

 毛皮産業に携わる人々は、好んでそうした
暗黙の偽善を糾弾する。業界の人から話を
聞いていると、ほぼ全員がどこかの時点で
こう主張する。ほかの家畜の生産者たちは、
自分たちがしてきたような組織的な改善など、
ほとんど迫られてこなかったではないか、と。

(文=リチャード・コニフ、
日経ナショナル ジオグラフィック社)