ペットを買ったら病気だった! 水頭症、心臓病…ペット店の診断書「異常なし」の例も 繁殖法に問題? | トピックス

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朝日新聞・朝日新聞デジタル
|更新|2016/05/26



購入後に水頭症などの疾患が判明したチワワ

 ペットショップで犬を買ったら
病気にかかっていたーー。
そんなペットに関するトラブルが
あとを絶たない。犬猫の飼育頭数が
減少傾向に転じており、犬の販売頭数も
減っているとされるなか、
国民生活センターに寄せられる
相談件数は高止まりしている。



「先天的な形成異常である
頭部頸椎接合部奇形(CJA)と
診断しました。水頭症や
頭蓋骨形成不全なども併発していて、
治療のすべがありません」

 大学付属動物病院で
そう獣医師から告げられ、
東京都三鷹市内に住む
会社員の女性(35)は頭が
真っ白になった。
2014年5月、全国で約90店を
展開する大手ペット店チェーンの
店舗に何度も足を運んだすえ、
約30万円で購入したメスのチワワ。
自宅に迎えて間もなく、
重大な先天性疾患が明らかになった。

 いま2歳。1日のほとんどを
ケージの中で過ごさせるしかない。
12時間おきに薬を飲ませる
必要もある。治療費の負担は重い。
ペット店との話し合いで
「犬を返却していただき、購入額を
返金します」と提案されたが断った。
女性はいう。

「お金がほしいわけじゃない。
病気の犬を繁殖させたり、
売ったりしている業者がいることが
許せない。犬にも命があるのに、
そのことを軽く見られているのが
悔しく、悲しい」





 国民生活センターには15年度、
ペット店などで購入した動物に関する
相談が前年度比5%増の1308件
寄せられた(16年5月15日集計)。
その大部分が、
「買ったら病気にかかっていた」など
ペットの健康にまつわる内容だという。

「年1千超という相談件数は、
各種相談のなかで目立って多い。
状況が改善されず、相談件数が
高止まりしているのは問題だ。
トラブルが減らないため、購入時に
病気の有無や保障内容について
よく確認するよう呼びかけている」
(同センター相談情報部)



購入してすぐに漏斗胸だとわかったロシアンブルー。
ミミダニの寄生も確認された


トラブルが訴訟に発展するケースもある。
埼玉県本庄市の会社経営者の
男性(61)は14年12月、
愛知県内に本社を置き全国展開する
ペット店チェーンを相手に、
購入した猫に先天性疾患があったとして、
治療費や慰謝料の支払いを求める
民事訴訟を起こした。

 近所のホームセンター内の店舗で
オスのロシアンブルーを購入したのは
14年7月。埼玉県川口市の動物病院の
院長名で出された「健康診断書」も
一緒に受け取った。
診断書では「耳」「心臓」など
13項目中12項目について
「異常なし」となっていた。

 だが購入した当日、
近所の動物病院に連れて行くと
「胸の中央部分が陥没している。
獣医師であれば気づかないはずがない」
と診断され、検査をして
漏斗胸だとわかった。
漏斗胸は多くの場合が先天性。
重症化すれば呼吸障害を起こす病気だ。

 ペット店の店長は
「取り換える。
同じようなのでいいですよね」と
言ってきた。納得できず、
チェーン経営者に謝罪を求めると、
役員から電話で
「裁判してもらって構いません」と
告げられた。男性は憤る。

「家族として迎えた子を、
この会社は、まるで鍋や皿のように
取り換えればいいと考えていた。
経営者は謝罪もしない。
経営姿勢を直してほしいと思った」


購入後、動脈管開存症だとわかったパピヨン

大阪府堺市に住む
公務員の男性(44)の場合、
同市内のペット店で購入した
メスのパピヨンに、
先天性の心臓病である
動脈管開存症
(どうみゃくかんかいぞんしょう、
PDA)が見つかった。
特徴的な心雑音が発生するので、
聴診だけでほぼ診断がつくと
される病気だ。

 ペット店経営者は犬の販売価格など
約10万円を返金し、
「(提携している)動物病院が
健康だというので販売した」と話した。
ペット店から渡された
同市内の動物病院発行の
「健康診断証明書」には確かに、
「先天性疾患の有無」という項目も含め、
すべてが正常であると書かれていた。


 男性は12年、手術費など
約50万円の賠償を求めて動物病院を
提訴した。
「家族になった以上、何があっても
一生面倒をみるのが当然。
先天性疾患だからといって、
見捨てることはできない。
獣医師には誠実な対応を
してほしかった」と振り返る。

 一審は勝訴したものの
二審で逆転敗訴となり、
最高裁に上告したが棄却された。
判決で「ペット店から依頼された
獣医師が、子犬の心臓を注意深く
聴診すべき注意義務を負うとは
いえない」と告げられた。

 動物に関わる法律に詳しい
細川敦史弁護士はいう。

「ペットショップに対して
提携病院の立場が弱いという
側面はあるが、それでも、
生体販売の現場において、
獣医師の関わり方が形式的なものに
なっている。
13年9月に施行された
改正動物愛護法では、
獣医師の果たすべき役割は
これまでより重くなった。
消費者保護のためにも、
獣医師にはより高度な職業倫理が
求められていいと考える」


購入後に動脈管開存症だとわかったパピヨン

そもそも、ペット店などで
販売される犬猫に健康トラブルが
減らないのはなぜなのか。
前出の埼玉県の男性が訴えた
ペット店チェーン側の弁護士は、
準備書面でこんな主張していた。

「ペットショップではペットを
ゲージ内で飼育保管しており、
ゲージ内での運動量に限りがあるため、
被告従業員らが本件猫の呼吸促迫や
喘鳴に気付かなかったとしても
不思議ではない」(原文ママ)

「(ペット店で販売される犬猫は)
人間の好み(都合)に合わせて
小型化したり新種をつくるために
交配合を繰り返し[中略]
血統が維持・左右されていることから
[中略]雑種よりも、
先天性疾患をもつ個体が必然的に
発生しやすい」

 犬の遺伝病などを専門とする
新庄動物病院(奈良県葛城市)の
今本成樹院長はこう話す。

「健康な子犬や子猫を作るのが
プロの仕事のはずなのに、現実には、
見た目のかわいさだけを考えて
先天性疾患のリスクが高まるような
繁殖が行われている。
大量に販売する現場では、
簡単な健康チェックしかなされず、
疾患を抱えた子がすり抜けてくる。
そして、病気の子は
あまり動かないので、
ショップの店頭では
『おとなしい子です』などという
売り文句で積極的に販売される。
消費者としては、
様々な疾患が見つけやすくなる
生後3カ月から半年くらいの
子犬や子猫を買うことが、
自己防衛につながるでしょう」

(太田匡彦)