(東日本大震災5年)オンリーワン 被災した犬、希望の星 | トピックス

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2016年3月1日16時30分朝日新聞DEGITAL

東日本大震災では多くの犬が
被災した。

その一匹、津波に襲われた福島県新地町に
取り残されていた老犬が、
東京の小学校で人気者になっている。

一方、岩手県大槌町では、
震災で両親と愛犬が行方不明になった
男性が、新たに飼い始めた犬を
災害救助犬に育て上げ、出番を待つ。

 ■震災生き抜き児童に「心の教育」

 東京都杉並区の立教女学院小学校。

休憩時間や放課後、
6年生の世話係が大型犬の
イングリッシュ・セッター「ウィル」
をケージから出し、散歩に連れ出すと、
子どもたちがわっと駆け寄る。

高学年の女子児童は「癒やされるー」。

児童たちは、後ろ脚が弱った
ウィルがふらつけば「がんばれー」と
声を掛けた。

 ウィルは10歳を超えていると
みられ、人間でいえばおじいさんだ。

震災から5カ月後の2011年8月、
津波被害が大きかった福島県新地町で
県に保護され、他の犬と共に、
福島市にあった県動物救護本部の
動物収容所に入った。

 立教女学院小が、心の教育に動物を
介在させる取り組みをしていることを
知っていた人から学校に連絡があり、
11年12月、訪れた吉田太郎教頭
(42)に引き取られた。

じっと遠くを見続けている姿が
印象的だった。

「福島を忘れない」という思いを込め、
意思や決意を意味する「ウィル」と
名付けた。

 だが、ウィルは13年4月に
四肢まひとなり、足が立たなくなった。

治療には高額な費用がかかる。

被災地で不便な生活を
強いられている人が多いのに、
治療にたくさんのお金を使って
良いのか、吉田さんは悩んだ。

だが子どもたちが心配し、
保護者からの協力もあって、
ウィルは大手術を受け、
リハビリを続けて9月に学校に
復帰した。

 12年4月にウィルと同じ新地町で
発見された、ジャーマン・ポインター系
雑種のブレスも5月に吉田さんに
引き取られた。

 立教女学院小によると、
命のぬくもりを感じるとともに、
犬を介して会話が弾むことで
仲間づくりにも役立っているという。

さらにウィルやブレスが
「福島県出身」ということで、
大震災を身近に想像できているという。

 吉田さんは、福島県郡山市や
会津若松市にある系列の幼稚園を
ウィルなどとともに訪れている。

その園児たちを東京に招いて、
子どもたち同士のつながりも
生まれている。

 吉田さんはこのほど
「奇跡の犬、ウィル」
(セブン&アイ出版)にまとめ、
出版した。(高田誠)



■岩手沿岸で唯一の災害救助犬 
両親が行方不明の男性、訓練

 岩手県大槌町の佐々木光義
(みつぎ)さん(47)の飼い犬ゆき
(ゴールデンレトリバー・雌2歳)が
1月、災害救助をする警察犬になった。

警察からの要請を待っている。

今月には大槌町と出動の協定を結ぶ。

 東京で会社員をしていた佐々木さんは、
実家を津波で流され、
父栄雄(えいお)さん(当時75)と
母セツさん(同73)が行方不明に
なった。

飼っていた犬もいなくなった。

佐々木さんは震災をきっかけに
大槌町に戻り、2012年12月から
立ち食いそば屋を始めた。

 翌13年9月、生後2カ月のゆきを
飼い始めた。

母の名セツを漢字「雪」に直して
読みを換えた。

いなくなった犬と同じ
ゴールデンレトリバーだった。

佐々木さんは
「今後の災害で捜索できる犬に
なってほしい」と思い始めた。

 ゆきが生まれた横浜市内の訓練所に
預けて鍛え、15年5月に
一般社団法人ジャパンケネルクラブ認定の
災害救助犬に合格。

10月には岩手県警の試験にも合格した。


佐々木光義さんとゆき

警察庁によると、災害救助犬は
2月16日現在、全国で67頭。

岩手県の沿岸部では、ゆきだけだ。

 出番に備えて訓練は怠らない。

毎日の散歩時に「待て」など指示の
確認をするほか、
月1回は近くの里山で捜索の
訓練をする。

 14年9月には妹分「さち」
(ホワイト・スイス・シェパード、雌1歳)
も飼い始め、特訓中だ。

「捜索はチーム行動が多い。

地元に捜索犬が増えればレベルも
上がるし災害時に迅速に救助に
当たれる」と話す。(東野真和)