■飼い主の意識と責任は-
飼い犬の狂犬病予防接種率が、
減少の一途をたどっている。
平成5年には全国の登録犬の
99%以上が接種していたが、
26年には71%まで減少した。
ウイルスに感染した犬にかまれて
人間が発症すれば致死率は
ほぼ100%だが、国内では昭和31年を
最後に犬の発症例がなく、
危機意識の低下から予防接種を
受けさせないケースが増えているという。
隣の台湾では半世紀ぶりの感染も
確認され、「過去の病気」と油断する
日本にも危機が忍び寄っている。
(大森貴弘)
◆「未登録犬」の存在
「『狂犬病なんて日本では
終わった病気でしょ』
といわれることもしばしば。
なかなか危機意識を持って
もらえないと感じる…」。
狂犬病の予防対策に携わる
大阪府職員は、犬の飼い主の
現状をこう指摘する。
厚生労働省によると、
平成26年度、全国の市区町村に
届け出のあった飼い犬662万匹のうち、
予防接種を受けたのは474万匹で、
接種率は71・6%。5年ごろまでは
99%以上で推移していたが、
8年に90%を下回り、
以降急激に低下している。
府の担当者は
「狂犬病への関心の低下に加え、
小型犬を室内で飼う人が増え、
外に出さないからと、
予防接種の必要性を感じないの
かもしれない」と分析する。
狂犬病予防法では、
犬を飼う際には市区町村への登録が
義務付けられているが、
「未登録犬」の存在も問題を
深刻化させている。
ペットフード協会(東京)の
調査によれば、26年度の国内の犬の
飼育数は推計1034万6千匹で、
登録数を372万匹も上回る。
多くが未登録犬とみられ、
こうした犬を含めれば接種率は
50%を切っているのが実態だ。
◆海外から国内に
狂犬病は国内では半世紀以上発症が
確認されず、撲滅されたとの認識が
広まっている。
だが、世界的には現在進行形の
感染症であり、常に感染リスクに
さらされている。
実際、日本同様に半世紀以上発症が
なかった台湾では2013年、
野生のアナグマへの感染が確認され、
厚労省が国内の野生動物の調査に急遽
(きゅうきょ)乗り出したことがあった。
幸い感染例は確認されなかったが
、国内でも感染の危険が消えたわけ
ではない。
同省結核感染症課は
「狂犬病は必ず死ぬ病気で
、対岸の火事と座視していられない」
と今後も調査を続ける方針だ。
野生動物の狂犬病感染がたびたび
確認されているロシアでは犬を
「船の守り神」とあがめる習慣があり、
北陸地方などではロシア漁船が犬を
乗せて寄港するケースが後を絶たない。
密輸などによって、感染した野生動物が
国内に入ってくる可能性も
否定できないという。
仮に野生動物を通じて国内に
ウイルスが入り込んだとしても、
人と接触する可能性が高い飼い犬への
感染を防げれば、人が罹患(りかん)
するリスクは大幅に減らせるだけに、
予防接種率の向上が大きな課題に
なっている。
狂犬病に詳しい岐阜大応用生物科学部の
杉山誠教授(人獣共通感染症学)は
「狂犬病は日本では忘れられた
病気になっているが、海外から流入する
可能性は捨てきれない。
社会に安心を与えるため、
飼い主には予防接種を済ませる
責任があると自覚してほしいし、
それが社会に欠かせない存在になった犬
と共生する道だろう」と話している。
