「犬を飼うってステキ?」 啓発活動には限界、法で規制も | トピックス

トピックス

身近で起こっている動物に関する事件や情報の発信blogです。

sippo|更新|2015/11/17




「飼う前も、飼ってからも考えよう」

「ほんとうに飼えるかな?」

「犬を飼うってステキです――か?」

 これらはある役所がつくった
標語です。

どこがつくったものか、
わかりますか?

 犬や動物を飼ってほしくない部署、
あるいは動物が好きではない部署が
つくったかのようにも思えますが、
実は、環境省や東京都の
動物愛護管理の担当部署が
制作したものです。

 犬猫をはじめ動物をペットとして
飼う人が増えれば、
人の生活が豊かでうるおいの
あるものになる。

動物を好きな人、
動物に優しい人たちが増え、
動物に優しい社会になる。

そうなれば、確かに理想的かも
しれません。

 でも実際には、動物のことを
よく知らずに安易に飼い始め、
または、あまり考えずに飼育頭数を
増やしたり、繁殖させたり
することによって問題が
生じることもあります。

つまり、安易な飼育や繁殖が、
ペットの飼育放棄や遺棄を
生み出す原因となることもあるのです。

 このような問題意識から、
国や自治体はずっと以前から、
いろいろな手法によって、
一般飼い主に対する適正飼養の
普及啓発に力を入れてきました。

 しかしながら、
こうしたメッセージを
本当に伝えたい相手というのは、
国や自治体がいくら啓発活動をしても、
届かないことが多いと思われます。

もちろん、国や自治体による地道で
継続的な広報活動は、
それまで知らなかった中間層に
訴えかけ、適正飼養の意識を
芽生えさせる可能性がある
という点で一定の意義があると
思います。

それでも、人のモラルに訴える
啓発活動には、どうしても
限界があるといわざるをえません。

 そこで、
今の動物愛護関連の法律でも、
飼い主に対する法律上の義務や
責任が定められています。

具体的には、
以下のようなものがあります。

●所有者、占有者としての責務
(終生飼養、逸走防止、繁殖に関する
適切な措置、生活環境の保全上の
支障を生じさせないこと)

●災害時の適正管理

●(犬の飼い主について)
飼い始めたときの登録義務、
鑑札の装着義務、
年1回の狂犬病予防注射を
受けさせる義務、
注射済票の装着義務

●終生飼養の趣旨に反する自治体への
持ち込み不可

●多頭飼育の場合の届出義務
(条例ある自治体のみ)
 ただ、これらの法的規制の多くは、
「努力義務」や「責務」といった
強制力のない義務とされています。
というのも、飼い主はペットに対する
所有権を有しています。
法律上、所有権は非常に強力な権利と
考えられていることから、
少なくともこれまでは、
飼い主に対する強い法規制は
意識されにくかったからだと
思われます。

 しかしながら、所有権が強いといっても
絶対的なものではありません。

動物保護のため、あるいは他人の
権利を守るために、ペットの飼い主に対して
一定の合理的な規制をすることは可能であり、
現状よりも強い規制をすることも
可能と考えられます。

 こうした観点から、
将来的に導入を検討されてよい
飼い主規制として、例えば
次のようなものが考えられます。

●飼い主の免許制度

●ペットに対する課税

●虐待現場での緊急保護、所有権剥奪、
飼育禁止命令
 いずれも短期間のうちに簡単に
実現するものではないでしょう。
それでも、不適切な飼い主や飼い方による
大きな問題が頻発し、いくら適正飼養の
普及啓発をしてもそういった事例が
なくならないようであれば、
こうした法規制によって、容易にペットを
飼えない仕組みが必要になるかもしれません。




東京都が作成した普及啓発のためのパンフレット

細川敦史
細川敦史(ほそかわ・あつし)
1976年生まれ。弁護士。
春名・田中法律事務所所属。
ペットに関する事件や裁判に
かかわりながら、動物愛護法などについて
メディアで発信。
愛玩動物飼養管理士1級。
ペット法学会員。