2015年07月17日YOMIURI ONLINE
猫が繁殖して増えすぎ、飼い主が飼育を
放棄する「多頭飼育崩壊」が後を絶たない。
猫の健康問題に加え、悪臭や鳴き声など
近隣への影響も出ている。
多頭飼育をする飼い主に届け出を
義務付け、指導・監督にあたる自治体も
増えており、具体的な対策を取らない
県に対し、愛護団体からは「神奈川でも
届け出制を導入するべきだ」との
声が上がっている。(岩島佑希)
◇響く鳴き声
「かわいくて手放せなくなった」。
45匹の猫を飼う県内の50歳代の
女性は涙をこぼした。
部屋にはいくつものケージが置かれ、
中には毛並みや皮膚がボロボロで、
病気になっている猫も。
助けを求めるような鳴き声が外まで響く。
女性は約10年前、ブリーダーを
始めようと雄雌の2匹を飼った。
子猫が生まれ、愛着が湧き、一匹一匹に
名前をつけた。
だが、一部に不妊・去勢手術を
受けさせず、数がみるみる増えた。
女性の夫がボランティア団体に
「SOS」を出したのは今年5月。
猫たちは団体に引き取られた。
女性は「私にとって家族でした。
でも、ブリーダーはやるべきでは
なかった」と弱々しい声で語った。
◇氷山の一角
捨て猫を保護し、新たな飼い主に
引き合わせる活動をしている
ボランティア団体「たんぽぽの里」
(相模原市中央区)は、県内で
この2年間に約10件の多頭飼育崩壊を
助けた。
昨年6月に、鎌倉、藤沢市の2か所で
飼われていた計90匹を引き取り、
その後も小田原市で77匹、寒川町で
36匹、相模原市で42匹……。
ひどく臭う室内で、骨と皮だけに
なって衰弱した猫もいたという。
石丸雅代代表(50)は
「救助の依頼は、実際に引き取った
件数の3倍ある」と話す。
引き受けられなかった猫たちの
その後は分からないといい、
「こうなる前に、行政が指導できる
仕組みがあれば」と訴える。
◇行政関与で予防
全国の自治体では、一定数以上の
飼育を届け出制にする条例制定の
動きが広がっている。
埼玉県や千葉県は10匹以上の
犬猫を飼う場合、飼育施設の
住所や規模、不妊・去勢の有無などの
届け出を義務付け、違反者には
埼玉は3万円以下、
千葉では5万円以下の過料を科す。
埼玉県の担当者は「猫は室内で
飼われていることが多く、事態が
悪化してから発覚する。
事前に行政が把握することは
崩壊の予防に有効だ」と話す。
条例で6匹以上の届け出を義務付けた
佐賀県でも、家に定期的に巡回し、
問題が起きる前に手術の指導などが
可能になったという。
一方、神奈川県は、
猫の適正飼養ガイドラインで、
「居住環境を踏まえ、その環境に
合った最低限の数に」と記載するに
とどまる。
届け出制も検討したが、
「義務化するほどの効果は
見込めない」などの理由から
見送ったという。
県動物愛護協会の山田佐代子会長は
「猫は繁殖のスピードが速く、
飼い主の自覚が足りないと崩壊が
起きやすい。
行政機関が把握して状況を
チェックすることが必要」と
指摘している。
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