音をうしなったボブ(その3) | トピックス

トピックス

身近で起こっている動物に関する事件や情報の発信blogです。

――手術を前に

 最初は耳が一生聞こえない可能性がある
というだけで悲しかったのに、
今はそんなこと、ちっとも悲しくない。

耳が聞こえなくてもボブを幸せにする
自信がある。

手術で顔が変わっても、ただただ苦痛なく
寿命を全うしてほしい。

元気になって私たちのもとへ
戻ってくること。

それだけが願い。

 ほんの1週間前に異常に気づいてから、
毎日知れば知る度、現実の結果は想像を
絶してきた。

でもたくさんのラッキーもあった。

臼井先生に出会えたこと。

最短で年明けだった診療が翌日に診て
もらえたこと(後から知ったが
キャンセルが出たわけではなく、
先生とスタッフが昼休み返上で対応して
くれたそうです)。

キャミックのMRI検査が次の日に
できたこと。

抗生物質の狙いもぴったり合ったこと。

そして手術がすぐにできたこと。

臼井先生の病院は、今年こそは長い
正月休みを取ろうと決めていたそう。

でもボブは急を要するからと休み返上で
入院させてくれ、日曜日にスタッフを
集めて手術してくれた。

最初はかなりきつい先生だと思ったけど、
新患のボブにここまでしてくれた。

感謝しても仕切れない。

何ひとつ欠けてもダメだった。

今ボブは頑張っている。

今1番つらいのはボブ。

手術の日、ボブには会わないけど、
そばにいたい。

ボブの近くにいることで力になりたい。

21日 日曜日

 左耳手術。

25日 木曜日

 右耳手術。

――手術を終えて

 手術は無事成功しました。

手術まではどんどん状況が悪化して、
ボブがまた元気になって私たちのもとに
帰ってくることが夢物語のように
感じました。

あの頃を考えると、今でもボブが私たちの
ところにいるのが不思議なくらいです。

退院してきたとき、ボブはげっそりして
筋肉もだいぶ落ちていました。

私たちに抱っこされると安心したのか、
そのまま寝てしまいました。

本当によくがんばった。

今も毎日のように「おかえり」
「がんばったね」と声をかけてしまいます。

 食事は手作りご飯。

まわりからは過保護と言われるほど、
手間を惜しまず世話をしてきたつもり
でした。

月1回は病院に行っていましたし、
アレルギー検査もほとんど異常なし。

皮膚もいつもきれいだと
言われてきました。

耳の疾患とも無縁でした。

いつだって耳がきれいで匂いもなかった。

それでもこんなことになって
しまったんです。

何がいけなかったんだろうって、
何度も何度も思い返しました。

シャンプーは月1回だから、そんなに
水は耳に入ってないはず。

でも夏は水浴びが大好きだった。

芝生に体をこすりつけるのが大好き
だからかな。

こんなに短毛なのに耳の中には
あんなに毛が詰まっていた
なんて……。

 フレンチブルドッグの飼い主の
多くは、麻酔を恐れすぎていると
思います。

「耳の洗浄くらいで全身麻酔なんて!」
って思うでしょう。

でもボブは連日全身麻酔でした。

だから少しでも気になることがあれば、
恐れずにぜひ1度、
ビデオオトスコープで
診察して欲しいと思います。

ボブは臼井先生に診てもらう
前日でも、地元の病院では
「耳はきれいだ」って
言われたくらいです。

たぶん耳の奥が正常な子なんて、
ほとんどいないんじゃないかと
思います。

「耳が痒いとか、臭うとかって人間じゃ
ありえないでしょ」と先生に
言われました。

本当にそうですよね。

ボブは相当の痛みとかゆみが
あったんだと思います。

 今、ボブには鼓膜がありません。
でも、右耳だけ耳小骨がかすかに
残っているので、ボブを呼ぶ声にだけは
以前のように小首をかしげて
反応してくれます。

それだけで、もう十分。

ボブは本当によくがんばってくれました。

〈臼井玲子医師のコメント〉

「フレンチブルドッグの耳は、
入口は広いのですが、途中から鼓膜に
向かって急角度に曲がり、とても狭く
なっています。

耳道入口の毛が落下したり水分が
溜まるとなかなか出てきません。

さらにわずかな炎症でも閉塞して
しまいます。

今、多くの飼い主さんが、自宅で耳に
液体を入れて洗浄しているでしょう。

ですが、この方法は寒い湿気のな
い国で生まれたもの。

高温多湿の日本には、まったく
適していません。

むしろ耳の奥に入り込んだ液体が
残ってしまったり、耳道入口から
落下した毛を耳道の奥へと詰め込む
可能性すらあるのです。

そしてやがて耳炎を引き起こして
しまいます。

現にフレンチブルドッグの耳の疾患は、
他犬種に比べ圧倒的に多いです。

不用意な耳掃除はするべきでは
ありません。

 口の中を覗いても胃の中は見えません。

それと同じで手持ち耳鏡では、
鼓膜まで十分に見ることはできません。

耳の奥を見るためには、
ビデオオトスコープが必要なのです。

しかし残念ながら、
ビデオオトスコープのある動物病院は
決して多くはありません。

ビデオオトスコープを使って
カテーテルによる洗浄や鉗子を用いた
治療まで行なっているところは
さらに少ないでしょう。

見える所だけを耳掃除しているのが
現状なのです。

治療が遅れれば、中耳炎に止まらず、
炎症は内耳や脳にまで進行し神経まで
侵されてしまいます。

ボブくんのように治療ができれば
よいのですが、手遅れになるかも
しれません。

今までは原因がわからず、
それが寿命と諦められていましたが、
今は治せる可能性があります。

 飼い主さんには愛犬のわずかなサイン
(耳道入口の分泌物や匂い)を
見逃さないように心がけて欲しいと
思います。

 鼓膜は首の近く(顎の骨の付け根付近)に
あります。

その辺りを頻繁に掻いたり、イビキが
非常にうるさいといった症状
(耳と鼻はつながっている)があれば
要注意です。

また皮膚の疾患がなかなか治らない場合も、
耳に異常がある可能性があります。

皮膚疾患を薬物などで一時的に抑えても、
鼓膜付近の汚れを除去しなければ
耳炎は治らず痒みが続きます。

耳の痒みが続けば皮膚の疾患も
再発します。

さらに皮膚の治療といって薬を投与すれば、
耳の中の菌はどんどん強くなり
治り難くなってしまいます

。耳が痒いと掻けばさらに毛が耳道へと
入り込んで耳炎が悪化するという
悪循環に陥ります。

耳以外でも、やたらと掻いたり、
手を舐めていたら耳の中に原因が潜んで
いるかもしれません。

ボブくんの症状の場合、耳炎のために
相当頭が痛かったと思います。

フレンチブルドッグは我慢強い犬なのです。
愛犬の『痛い!』に気付いてください」

〈取材を終えて/小林みちたか〉

 耳に液体を入れてブルブルさせて、
出てきた汚れを拭うケアをしている
飼い主さんは多いと思います。

ボブくんも月1回程度行なっていた
そうです。

我が家の4歳のブヒも、週に1回の
耳のお手入れは液体を使っています。

実はそれが大変な疾患につながるとは
思いもしませんでした。

確かに人間の子育てでも
20、30年前のやり方の多くは
間違っていたという話をよく聞きます。

動物医療は近年、目覚ましい進歩を
遂げていますから、これまで当たり前
だったことが覆されてもなんら
不思議ではありません。

我が家も一度検査したいと思いました。

 ボブくんは会うなり私に飛びかかり、
顔をぺろぺろと舐めてくれました。

直前に臼井先生からボブくんの
切除した両耳(のなか)を見せてもらって
いたので、あまりの元気さにびっくり
しました。

耳も根元こそ多少やわらかいですが
立派なバットイヤーで、大村さんも
「以前のボブの耳を忘れてしまうくらい
違和感がない」とおっしゃっていました。

鼓膜がないとバランス感覚が悪いのかと
思っていましたが、大好きなボールに
ジャンピングキャッチしたりと、
元気に駆け回っていました。

ボブくんが元気を取り戻せたのは、
大村夫妻の迅速な行動と判断も
大きかったと思います。

地元の病院で一度はCT検査を
予約するも、すぐに断り臼井先生のもとへ
駆け込んだことは、今回の結果の
分岐点だったかもしれません。

信頼のおける東京の主治医への相談が
セカンドオピニオンの役割となり、
決断を後押ししてくれたでしょう。

「お医者さんにも得意不得意があるので、
病院は先生が多い方が安心。

また、新しい治療法を積極的に
取り入れている病院は信頼できます」と
おっしゃっていました。

耳の専門である臼井先生に出会えたのも、
大村夫妻のボブくんへの愛情が
引き寄せたのだと思います。





BUHI 
vol.34
(春号・2015年3月発行)より
BUHI
BUHI(ブヒ)
オークラ出版刊。

フレンチブルドッグに完全特化した専門誌で、
愛情あふれる記事と心躍らせる
グラビアが特長。
3・6・9・12月27日の年4回発売。
キャッチフレーズは
「人生でフレンチブルドッグに出会えた強運なあなたへ」