「売れる犬」ゆがんだ繁殖 遺伝性の病気、日本で突出 | トピックス

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2015年5月30日05時00分朝日新聞デジタルより


◇ペットとともに


犬や猫にも、遺伝子が原因の病気がある。
実は日本は、世界でも目立って
遺伝性疾患の犬が多いという。

検査技術の向上で病気の発生を
減らせるようになったのに、特定の犬種に
人気が集中する風潮と繁殖業者
(ブリーダー)
の意識の低さが、望ましくない状況を
生みだしている。


 ■業者の意識向上がカギ

 名古屋市内で5月20日、
「ペットプラス」を全国展開する
ペットショップ大手AHBの主催で、
遺伝性疾患などに関するシンポジウムが
開かれた。

同社診療部の市橋和幸・獣医師が
ブリーダーらを前に、失明につながる病気
「進行性網膜萎縮症(PRA)」を例に取って
「発症犬は繁殖に用いるべきではない」
などと説明した。

 原因遺伝子が一つに特定された犬の病気は
5月現在、193ある。

原因遺伝子を持っていても見かけは健康で
発症しない「保因犬」同士の繁殖を行うと、
4分の1の確率で病気を発症する犬が
産まれる。

一方で、犬の全遺伝子の配列はすでに
解読されており、保因犬を見つけるための
遺伝子検査も約50の病気で可能になった。

 ブリーダーが注意をすれば原因遺伝子を
受け継ぐ犬を減らせる環境は整ったはずだが、
AHBの研究所長も務める
筒井敏彦・日本獣医生命科学大名誉教授は
「大学付属病院で犬の遺伝性疾患を長く
見てきた。

『日本は世界でも突出して犬の
遺伝子疾患が多い』と言われる」と話す。

 その背景として、新庄動物病院(奈良県)の
今本成樹院長はブリーダーが抱える
問題を指摘する。

 ミニチュアダックスフントのなかでも
白い毛が交じった「ダップル」という種類が
はやり、高値で取引されていたことがあるが、
今本氏は「この毛色になる遺伝子を持つ
犬同士の交配では死産や小眼球症、難聴になる
個体が確認されている。

(ブリーダーは)はやりの毛色ではなく、
まず犬の健康を求めてほしい」と話す。

 鹿児島大の大和(やまと)修教授は、
プードル、チワワ、ダックスフント、柴犬
(しばいぬ)など特定の犬種に人気が集中する
日本独特のペット事情にも原因があるとみる。

 「特定の犬種がメディア報道で爆発的に
流行し、短期間で可能な限り多くの個体を
生産する努力が
払われる。
そんな土壌が遺伝性疾患を顕在化させ、
新たに作りだす要因になっていると推測される」

 大和教授によると、日本で注意が必要な
主要な犬の遺伝性疾患は表の六つ。

たとえばウェルシュ・コーギーでは、
10歳前後になると変性性脊髄
(せきずい)症(DM)と呼ばれる
病気を発症する可能性が
ある個体が約48%もいる。

 ペット産業側も動き出してはいる。

AHBは年間のべ約1千人の契約
ブリーダーらに遺伝性疾患の
情報提供を行っている。

ペッツファーストは「販売した子犬が
発症した場合、ブリーダーに連絡して
繁殖ラインから外させるなどの対応を
している。

購入者には、診療費の一部負担や
提携病院を紹介している」
(正宗伸麻社長)。

同じくペットショップ大手のコジマも、
入荷後の全頭検査で異常や発症が
わかった場合、ブリーダーに繁殖の
自粛を促すなどしている。

 大和教授は「犬の遺伝性疾患は
状況改善が可能だ。
まずブリーダーの意識向上を図る
必要がある」と話している。

 (太田匡彦)



変性性脊髄症を発症したウェルシュ・コーギー。
後ろ脚だけまひしている状態だが、
いずれ前脚もまひし、
この歩行具は使えなくなる
=大和修・鹿児島大教授提供