千歳川でフライフィッシングをしていたら、後ろに人が来た。
真後ろに立たれるとキャストができないので、私はその人が立ち去るのを待った。
するとその人は川岸まで降りてきて、流れの中に入っている私に声をかけてきた。
見るとフィッシングブーツを履いている。
けれどロッドは持っていない。
何者だろうかと私は訝(いぶか)しんだ。
見ると60歳代くらいに見える私と同年齢くらいのおじさんだった。
おじさんは「フライを始めて何年くらいになるの?」と聞いてきた。
「40年くらいですけど」と私が答えると、「スペイキャストって知ってる?」と聞いてきた。
「知ってますよ。けど、うまくできない」と私が答えると、「ちょっと上がってきて」と私を岸辺に招き寄せ、「ロッドを貸して」と言うなり私のロッドを掴み、見事なスペイキャストをやってみせた。
「ほう」と私が感心していると、おじさんは「私はフライキャスティングを人に教えるのが趣味でね。それでこうしてときどき千歳川を見て回っているんだ。あなた、ぜひスペイキャストをマスターして」と言った。
私はロッドを返され、右手で持った。
「そういう持ち方じゃなくて」とおじさんは持ち方から私に指導してくるのだった。
「こういう持ち方はどのキャスティング本にも載ってないけどね。私が発明したんだ。このほうが絶対うまくキャストできる」
「まず前方に飛ばしてみて」
「そうそう。それでロッドを少しずつ上げてやる。少しずつだよ。そうそう」
「横から見たらロッドが午後2時くらいに来たらロッドを前方に振り下げる。下まで下げないでね。午前10時くらいでロッドを止める。…そうそう。それがスペイキャストさ。できるじゃない。やってよ」
そう言うなりおじさんは去っていった。
世の中には物好きな人もいるものだ。
しかしそれ以降、私はスペスキャストせをうまくできるようになり、後ろに障害物があってもキャストできるようになった。
おじさん、ありがとう。
〈スペイキャスト。後ろに障害物がある場合などに行う〉
【ダイエット記録】0.6キロ減った。あと6.8キロだ。