《2024年5月14日》ーサニボンの恐怖 | aichanの双極性日記

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千歳・札幌の季節の風景とレザークラフトとアウトドア(特にフライフィッシング)。
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今から40数年前の20歳前後のころ、私は2年ほど東京で同棲していた。

 

目黒の八雲という高級住宅街である。

 

その一画というか隅に、小汚いアパートがあった。

 

私たちはそこに住み、私は昼はサラリーマンをし、夜は専門学校に通い、彼女は近所の喫茶店に勤めていた。

 

私は、朝は6時に起きて六本木の会社に通い、退社するとその足で麻布十番を通って三田の学校まで徒歩で40分かけて通った(“三田”といっても慶応ではない)。

 

学校が終わるのは夜の10時。

 

田町から山手線に乗り渋谷で降りてバスに乗り、目黒の八雲まで来る。

 

そこから徒歩でアパートに帰ると11時を過ぎていたものだ。

 

そんな毎日だったから遊ぶ暇もなかった。

 

アパートに帰るなり彼女の用意してくれた夜食を食べてバタンキューで、起きるとまた同じ1日の繰り返しになった。

 

そんなある日、アパートの水洗トイレ(洋式)が詰まった。

 

何度か流してみたが、その度に溢れそうになるばかりで詰まりは取れない。

 

それでも少しずつ水は引いていくので、大丈夫だろうと私たちは楽観していた。

 

確か朝で、出社時間に遅れそうになった私たちは放置してアパートを出た。

 

私が深夜に帰宅すると、トイレの水は引いていた。

 

彼女も私もホッとして水を流すと、水が流れずにどんどん上昇してきた。

 

今度は少しも水が引かないようで、朝よりも勢いよく水は上昇し、今にも溢れそうになった。

 

溢れる直前で止まった水面を見ていたら、私は便意を催した。

 

便座付近まで達した水面を見て、私はどうすべきか困惑した。

 

座れば尻に水がつくことは明らかだった。

 

便器の中の水を見ると、私たちが捨てたトイレットペーパーが細かくなって浮遊していた。

 

その上に座る気にはなれなかった。

 

といって便意は強まるばかりだった。

 

時は深夜で、近くに公園もコンビニもなく(当時はコンビニなんてなかった)、隣の大家さんにトイレを借りにいくのもはばかられた。

 

私はやむを得ずビニールのゴミ袋を彼女からもらい、四苦八苦の上、その中に脱糞した。

 

四苦八苦したというのは説明を要する。

 

私はウンコをすると同時にオシッコも出るたちで、そのため、しゃがんでうまく尻の下にゴミ袋をセットするまではよかったが、いざウンコを気張ったらオシッコも出てきそうになって困ったのである。

 

オシッコをビニール袋の中にしてしまっては、ちょっとした穴でもあればすぐ漏れてくると思った。

 

試行錯誤の末、私はまずゴミ袋の中にウンコを出し、その間は必死にオシッコを我慢し、脱糞が終了したら時を移さず便器の中に放尿するという方法で難局を打破した。

 

そのころには便器の中の水が少し引いていて、数回分のオシッコなら十分に収容できた。

 

1日の仕事と学業に疲れ切っていた私は、彼女と顔を合わせてため息をつきながらも、無事にウンコとオシッコを終えて安心し、風呂に入ってすぐ寝た。

 

翌日、トイレを見ると水は引いていた。

 

私は水を流してみた。

 

また溢れそうになった。

 

それでも、また夜になれば水は引いているだろうと思い、忙しかったこともあってそのまま放置した。

 

その後も、帰宅すると水は引いていた。

 

そこを見計らって私たちはウンコとオシッコをする。

 

そして、ちょっとだけ水を流す。

 

すると翌朝には水分は引いていた。

 

紙や固形物は残ったが、水は引くので何とかなった。

 

そうやって数日を過ごした。

 

1週間ほど経つと、便器の中にはトイレットペーパーと固形物で山ができていた。

 

山はどんどん盛り上がってきて、さらに1週間も経つと、座ったときに尻につきそうなほどになっていた。

 

さすがに危険を感じた私は日曜に街に出てトイレの詰まりを取る器具を買ってきた。

 

お椀型のゴム製のものが先についている器具である。

 

これを便器の流れ込み口に押しつけ、グイッと引っ張る。

 

するとスポッといって詰まりが取れるというアレである。

 

〈アレ〉

 

アパートに帰ってこれを試すと、恐るべきことになった。

 

トイレットペーパーとウンコでできた山はなかなか堅く、私は少し水を流してその山を崩してから挑んだのだが、崩したら固形物が水に溶けて水は真っ茶色になり、昔見た貯め壷のような景色になってしまった。

 

そこに詰まり取りの器具を突っ込んでスッポンスッポンやると、なんと茶色の溶液は大きく波打ち、ついには勢い余って四方に飛び跳ねはじめたのである。

 

トイレと私は糞尿にまみれた。

 

私は思案し、彼女と一緒にトイレの床と便器をきれいに拭いたあとで便器に上からゴミ袋を逆さにかぶせ、便器の外側でゴミ袋の口をセロテープでとめた。

 

そしてゴミ袋の底に穴を開け、そこに詰まり取りを差し込み、セロテープで固定した。

 

こうして私はまたスッポンスッポンとやりはじめた。

 

こうすれば、しずくが飛び跳ねてもゴミ袋の中から外に出ることはない。

 

ところが、セロテープでとめたのがよくなかった。

 

セロテープの粘着力は予想以上に弱く、ほんの5回ほどスッポンスッポンとやると早くもあちこちではがれ出した。

 

そのことに気付いたとき、今度はゴミ袋が破れた。

 

「アッ」と思ったときはもう遅く、“しずく”はまたも私の服とトイレの床を汚していた。

 

私は意地になってきた。

 

服を取り替えてホームセンターへと足を伸ばし、トイレ用品のコーナーで品物を物色した。

 

あった。

 

詰まり取り用の長いワイヤーを見つけた。

 

これを流れ込み口に差し込んでグイグイ押し込めば詰まりなど簡単に取れそうだった。

 

私はアパートに帰り、長いゴム手袋をはめて作業を行った。

 

茶色の水の中に思い切って手を入れ、その長いワイヤーの先端を流れ込み口に入れてやる。

 

そして手を水から出し、ワイヤーをどんどん差し込んでやる。

 

2メートルほどもあったワイヤーの半分以上が水没した。

 

このへんでいいだろうと思ってワイヤーを抜く。

 

ところが、何の変化もない。

 

同じ作業を繰り返す。

 

しかし、効果はない。

 

私は途方に暮れ、日曜日の太陽は沈み、やがて夜が来て私は仕方なくまた寝た。

 

1週間がまた始まった。

 

私たちは水の引いた便器の中に脱糞、放尿し、少しだけ水を流して出社し、帰宅するとまた水の引いてることを確認して脱糞、放尿して少しだけ水を流す……という日々を繰り返した。

 

便器の中の山はさらに盛り上がり、ついには便器の中が固形物でびっちりと埋まってしまった。

 

私たちは外側がクラフト紙、内側に防水コートしてある頑丈なゴミ袋を買ってきて、その中で脱糞、放尿するようになった。

 

そうするしかなかった。

 

ここまでトイレが見事に詰まってしまったあとでは、「詰まりました」と大家さんに言い出すことがはばかられた。

 

私でさえ目を覆いたくなるほどのそのありさまを、赤の他人が見たらどうなるであろうか。

 

そう考えると大家さんに言い出せなかった。

 

次の日曜日、私はまたホームセンターに行き、詰まり取り製品を探した。

 

今度は薬剤を探した。

 

詰まっている物体を溶かしてくれる薬剤を探した。

 

「サニボンF」(「サニボンS」という名だったかもしれない)という商品を見つけた。

 

説明書きを読むと、詰まったパイプなどにこの薬剤を振り入れてやると詰まりが取れるという。

 

私は4本買った。

 

私はサニボンF4本をトイレの床に置き、まず水を少し出して便器の中の固形物を崩した。

 

そうして流れ込み口付近の詰まりを取り除き、そこにおもむろにサニボンFを1本分、一気に振り入れた。

 

サニボンFは白い粉状の薬剤だった。

 

白い粉は便器の中の茶色の溶液の中に次々と沈み、瞬く間に反応しはじめた。

 

シューッというような音を出して細かい泡を吹きはじめた。

 

効きそうに感じた私はもう1本を開封し、それも全部振り入れた。

 

シューッ、シューッ……。

 

連鎖反応的に反応は拡大し、便器の中の水面はあっと言う間に泡で埋まった。

 

泡は最初は白かったが次第に茶色に変色し、徐々に盛り上がってきた。

 

「まずい」

 

と思ったとき、茶色い泡はすでに便座の高さを越えて便器の上で膨らんでいた。

 

今にもこぼれ落ちそうだった。

 

膨らみが止まったかに見えた次の瞬間、茶色い泡は歯止めを失った感情のように当たるところ敵なしの勢いで便器から流れ落ちた。

 

便器の周囲からまるで滝のように泥色の液体がとめどもなく流れ落ちた。

 

私たちは慌てて雑巾やタオルをかき集め、トイレのドアのところに敷いた。

 

溢れ出した糞尿の溶液はトイレの床をみるみる浸し、やがて入口へと殺到してきた。

 

雑巾やタオルのバリケードは今にも押し流されそうだった。

 

私は彼女に言ってバスタオルまで持ってきてもらい、トイレからの流れ出しを阻止した。

 

その糞尿の海をどうやって始末したか私はまったく覚えていない。

 

もしかするとすべて彼女にやってもらったのかもしれない。

 

ともかく私は呆然としていたようだ。

 

トイレの詰まりは、その後、水酸化ナトリウム系の薬剤を使って取り除くことができた。

 

しかし、泥色の滝の光景は私の記憶からいまだに取り除くことができないでいる。

 

なお、これとほぼ同じ小文はブログ〈Zensoku Web〉にも載せている。

 

 

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