源氏物語イラスト訳【紅葉賀180】中将の策略
中将、をかしきを念じて、引きたてまつる屏風のもとに寄りて、ごほごほとたたみ寄せて、おどろおどろしく騒がすに、
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は、年増にして色好みの源典侍(げんのないしのすけ)にちょっかいを出したのを義兄の頭中将に知られてしまいました。
源氏物語イラスト訳
中将、をかしきを念じて、
訳)頭中将は、おかしさを我慢して、
引きたてまつる屏風のもとに寄りて、
訳)お引き申し上げた屏風の所に近寄って、
ごほごほとたたみ寄せて、
訳)ばたばたと畳み寄せて、
おどろおどろしく騒がすに、
訳)仰々しく動揺させるのだが、
【古文】
中将、をかしきを念じて、引きたてまつる屏風のもとに寄りて、ごほごほとたたみ寄せて、おどろおどろしく騒がすに、
【訳】
頭中将は、おかしさを我慢して、お引き申し上げた屏風の所に近寄って、ばたばたと畳み寄せて、仰々しく動揺させるのだが、
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■【中将】…頭中将。光源氏の義兄
■【をかしき】…シク活用形容詞「をかし」連体形
※【をかし】…おかしい。滑稽だ
■【を】…対象の格助詞
■【念じ】…サ変動詞「ねんず」連用形
※【念ず】…我慢する
■【て】…単純接続の接続助詞
■【引く】…屏風を引いて見えないようにする意
■【たてまつる】…謙譲の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【屏風(びやうぶ)】…室内に立て、装飾を兼ねて風を防ぎ、仕切りとする家具
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【もと】…そば。ところ
■【に】…場所の格助詞
■【寄る】…近寄る
■【て】…単純接続の接続助詞
■【ごほごほと】…ゴロゴロと。ゴトゴトと。鳴り響く音を表す語
■【たたみ寄す】…(屏風を)畳んで(脇に)寄せる
■【て】…単純接続の接続助詞
■【おどろおどろしく】…シク活用形容詞「おどろおどろし」連用形
※【おどろおどろし】…仰々しい
■【騒がす】…大騒ぎさせる。動揺させる
■【に】…単純接続の接続助詞
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頭中将は、光源氏のライバル的存在です。
光源氏と源典侍のアバンチュールの場面に忍び込み、現場を押さえて光源氏の鼻を折ってやろうという算段。
笑いたいのをぐっとこらえている頭中将の姿が、思い浮かばれますよね。
「引きたてまつる屛風」という記述は、
いくつかの『源氏物語』の異本でも、異なっていて、
さまざまな解釈がされています。
おそらく、直前からの文脈によると、
「光源氏が引いた屛風」
という内容なのでしょうが、
「たてまつる」という敬語は、
補助動詞で用いられると、必ず謙譲語になってしまい、源氏物語の法則からすると、謙譲語のみを用いている、その主体が光源氏なんて、ありえないことなんです。
(※詳しくは、下に掲載したYouTubeをご参照ください)
なので、大島本以外は、
「引きたてたまへる」
となっています。
まあ、そうしてもいいのですが、
わたしは、この直後に「内侍は~」と続きますので、
「引きたてまつる」のままをとり、
内侍(源典侍)が、屛風のうしろに下がった光源氏を隠そうと、その屏風を引いた
という設定にしました。
この方が、次の視点人物となる内侍(源典侍)の心情の動揺にも、うまくシフトしていきますからね!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
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