源氏物語イラスト訳【紅葉賀169】立ち濡るる
「立ち濡るる人しもあらじ東屋にうたてもかかる雨そそきかな」
と、うち嘆くを、
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には少し興味を持って、ちょっかいを出しています。
源氏物語イラスト訳
「立ち濡るる人しもあらじ東屋に
訳)「雨に濡れて訪れてくれる人もあるまい東屋に、
うたてもかかる雨そそきかな」
訳)不快にも降りかかる雨垂れがつらいですわ」
と、うち嘆くを、
訳)と、悲しみ嘆くのを、
【古文】
「立ち濡るる人しもあらじ東屋にうたてもかかる雨そそきかな」
と、うち嘆くを、
【訳】
「雨に濡れて訪れてくれる人もあるまい東屋に、不快にも降りかかる雨垂れがつらいですわ」
と、悲しみ嘆くのを、
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■【立ち濡るる】…催馬楽「東屋」の「東屋の真屋のあまりのその雨そそぎ我立ち濡れぬ殿戸開かせ鎹もとざしもあらばこそその殿戸我鎖さめおし開いて来ませ我や人妻」を踏まえた表現。誰も訪れないことを嘆く意
※【立ち―】…動詞に付いて意味を強める接頭語
※【濡るる】…ラ行下二段動詞「ぬる」連体形
■【し】…強意の副助詞
■【も】…強意の係助詞
■【あら】…ラ変動詞「あり」未然形
■【じ】…打消推量の助動詞「じ」連体形
■【東屋(あづまや)】…屋根を四方にふきおろした簡素な家
■【に】…場所の格助詞
■【うたて】…嫌なことに
■【かかる】…降りかかる
■【雨(あま)そそき】…雨のしずく。雨だれ
■【かな】…詠嘆の終助詞
■【と】…引用の格助詞
■【うち嘆く】…悲しみ嘆く(「うち」は接頭語)
■【を】…対象の格助詞
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わたしの夫は、遊具点検の仕事をしてるんですが、
公園にはよく「東屋」がありますよね。
四方の柱と屋根だけの休息所のことを、あずま屋と言っています。
ただ、ここでいう「東屋」は、パーゴラのことではなくて、みすぼらしい草庵のことをさします。
「東屋の 真屋(まや)のあまりの
その雨(あま)そそぎ 我立ち濡れぬ
殿戸(とのど)開かせ
鎹(かすがひ)も とざしもあらばこそ
その殿戸 我鎖(さ)さめ
おし開いて来ませ 我や人妻」
この「真屋」というのも、東屋と同じく、切妻作りの小屋のこと。
源典侍は、この催馬楽(歌謡)を元歌に、本歌取りのように、「立ち濡るる人しもあらじ」と源氏に詠いかけたのです。
私の所に来てくれる殿方は、誰もおりません。
「濡るる」「雨そそき」などは、縁語となっています。歌全体に、「雨」の雰囲気を漂わせているんですね。
今回の場面。夕立が降ったあとの、雨上がりの宮中の状況と、とてもよくマッチした、なかなか洒落た和歌ですよね。
要するに、この歌の趣旨は、こんな感じ。
「私の東屋には、だれも来てくれないので、どうか、…どうか今夜、私のもとをお訪ねください!」
ここでいう「東屋」は、自分の屋敷を卑下した表現でしょうが、
現在、庭園にある「東屋(=休息所)」を、なんだかわたしは想像せずにいられません。
自分の宿を「東屋(=休息所)」と卑下してまでも、
光源氏と一夜を共にしたい!
☆一夜限りの情事☆
東屋には、そんな欲情も垣間見えるって思うのは、わたしだけでしょうか…?
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
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