源氏物語イラスト訳【紅葉賀114】女君の心地
女君、ありつる花の露に濡れたる心地して、添ひ臥したまへるさま、うつくしうらうたげなり。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は離宮に下がり、光源氏との不義密通の御子を出産しました。四月になり、藤壺宮と御子が宮中に戻り、源氏と藤壺は罪悪感に苛まれながら時を過ごしています。
源氏物語イラスト訳
女君、ありつる花の露に濡れたる心地して、
訳)若紫の君は、さっきの花(撫子)が露に濡れたような感じがして、
添ひ臥したまへるさま、
訳)物に寄りそって横になっていらっしゃる様子が、
うつくしうらうたげなり。
訳)かわいらしく可憐である。
【古文】
女君、ありつる花の露に濡れたる心地して、添ひ臥したまへるさま、うつくしうらうたげなり。
【訳】
若紫の君は、さっきの花(撫子)が露に濡れたような感じがして、物に寄りそって横になっていらっしゃる様子が、かわいらしく可憐である。
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■【女君】…紫の君。若紫のこと
■【ありつる花】…先程手折った撫子の花
※【ありつる】…さっきの。先程の
■【の】…主格の格助詞
■【露(つゆ)】…露。消えやすいものとしてとらえることが多い
■【濡れ】…ラ行下二段動詞「濡る」連用形
■【たる】…完了の助動詞「たり」連体形
■【心地(ここち)】…心持ち。感じ
■【し】…サ変動詞「す」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【添ひ臥す】…物に寄り添って体を横たえる。横になる
■【たまへ】…たまへ】…ハ行四段動詞「たまふ」已然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒若紫)
■【る】…完了(存続)の助動詞「り」連体形
■【さま】…様子
■【うつくしう】…シク活用形容詞「うつくし」連用形ウ音便
※【うつくし】…かわいらしい
■【らうたげなり】…かわいらしい。可憐だ。いじらしい
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しどけなくうちふくだみたまへる鬢ぐき、あざれたる袿姿にて、笛をなつかしう吹きすさびつつ、のぞきたまへれば、女君、ありつる花の露に濡れたる心地して、添ひ臥したまへるさま、うつくしうらうたげなり。
【問】 傍線部の説明として最も適当なものを選べ。
1.さっき見た花の露のように、涙が滴り落ちているる、紫の君の泣きはらしたようす。
2.昔手折った花の枝葉が、朝露にしっとりと濡れていた時のような、紫の君の妖艶な雰囲気。
3.昔見た桜の花が、まるで夜露で散ってしまうような、紫の君のはかないようす。
4.藤壺宮に贈るために手折った撫子の花が、消えてしまうような、紫の君のはかない雰囲気。
5.藤壺宮に贈るために手折った撫子の花が、妖艶な湿り気を帯びたような、紫の君の雰囲気。
【女君】は、若紫のことです。
これまで、若紫のことは、「若草」や「幼き人」、「姫君」などと表現されてきましたが、
ここで初めて、「女君」と、一人前の女性扱いの呼称がなされます。
『新潮日本古典集成』によると、
「源氏に対してやや怨みを含んだていの艶な姿態の形容である」と注釈がされています。
ちょっと、若紫、大人になったんでしょうかねぇ!
※【答え】は最後にあります。ぜひやってみてね!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。
答え…【5】