源氏物語イラスト訳【末摘花220】紅鼻⇒紅花
女房たち、何ごとならむと、ゆかしがる。
「ただ梅の花の色のごと、三笠の山のをとめをば捨てて」
と、歌ひすさびて出でたまひぬるを、命婦は「いとをかし」と思ふ。
【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君(末摘花)と逢瀬を迎えた光源氏。返歌もできない教養のなさや、雪明かりの朝に見た彼女の容貌に驚き、幻滅します。しかし、縁があって逢瀬を迎えたのだから、一生彼女の面倒をみようと心に決めます。光源氏19歳の年末、へたな和歌と元日に着る野暮ったい衣装が届き、光源氏は閉口します。命婦は贈り物を届けたことを後悔し、そっと退出しました。
源氏物語イラスト訳
女房たち、何ごとならむと、ゆかしがる。
訳)女房たちは、何事であろうかと、見たがる。
「ただ梅の花の色のごと、
訳)「ちょうど紅梅の色のように、
三笠の山のをとめをば捨てて」と、歌ひすさびて出でたまひぬるを、
訳)三笠の山の少女は捨ておいて」と、(風俗歌の一節を)口ずさんで退出しなさったのを、
命婦は「いとをかし」と思ふ。
訳)大輔命婦は「とても素敵だ」と思う。
【古文】
女房たち、何ごとならむと、ゆかしがる。
「ただ梅の花の色のごと、三笠の山のをとめをば捨てて」
と、歌ひすさびて出でたまひぬるを、命婦は「いとをかし」と思ふ。
【訳】
女房たちは、何事であろうかと、見たがる。
「ちょうど紅梅の色のように、三笠の山の少女は捨ておいて」
と、(風俗歌の一節を)口ずさんで退出しなさったのを、大輔命婦は「とてもステキだ」と思う。
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■【女房たち】…宮中に仕える女官たち
■【何ごとならむ】…何事であろうか
※【なら】…断定の助動詞「なり」未然形
※【む】…推量の助動詞「む」連体形
■【と】…引用の格助詞
■【ゆかしがる】…見たがる
※【ゆかし】…見たい(シク活用形容詞)
※【―がる】…~がる(接尾語)
■【ただ梅(むめ)の花のごと】…衛門府の風俗歌「たたらめの花のごと 掻練(かいねり)好むや げに紫の色好むや」による。「梅」は誤用か源氏の創作かは不明
※【ただ】…ただひたすら。ちょうど
※【ごと(如)】…~のように
■【三笠(みかさ)の山のをとめ】…三笠山の少女。春日大社に仕える巫女の意味だが、ここでは末摘花をさす
■【~をば】…~を。~は
■【捨て】…タ行下二段動詞「捨つ」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【と】…引用の格助詞
■【歌ひすさぶ】…歌を口ずさむ
■【―過ぐす】…~して時を過ごす
■【て】…単純接続の接続助詞
■【出で】…ダ行下二段動詞「出づ」連用形
■【たまひ】…ハ行四段動詞「たまふ」連用形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【ぬる】…完了の助動詞「ぬ」連体形
■【を】…対象の格助詞
■【命婦(みょうぶ)】…大輔(たいふ)命婦。光源氏の乳母子
■【は】…取り立ての係助詞
■【いと】…とても
■【をかし】…素敵だ。すばらしい
■【と】…引用の格助詞
■【思ふ】…ハ行四段動詞「思ふ」終止形
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【本日の源氏物語】
「歌ひすさぶ」というのは、「歌を口ずさむ」の意です。
光源氏は、「ただ梅の花のごと」という、衛門府の風俗歌にある、「たたらめの花のごと 掻練(かいねり)好むや げに紫の色好むや」の1フレーズを口ずさみます。
「たたらめ」というのは、もののけ姫などでもあった「たたら(鍛冶の炉)」の意味ですが、それを「ただ梅(むめ)の花」と源氏が言い換えたのは、末摘花の紅鼻(=紅花)を思い出してのことでしょうか。
この1フレーズを「引き歌」にすることで、この風俗歌のラスト歌意にある「げに紫の色好むや」が想定されます。
紫の色――
そう。若紫に、源氏は逢いに行くのですね。
――「三笠山の乙女」を捨てて――。
ちなみに、「三笠山の乙女」とは、奈良の春日大社の巫女(みこ)のことですが、春日大社は、鍛冶で用いる槌の神、建御雷(たけみかづち)を祀っています。
「たたらめ(鍛冶炉)」からの類推ですね。
そして、この槌の神は、常陸の鹿島神社でも祀っているため、常陸宮の姫君(末摘花)を連想させてもいます。
たったひと言の「口ずさみ」に、たくさんの意図が組み込まれているんですね~!!
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