源氏物語イラスト訳【末摘花126】行幸
「しか。まかではべるままなり。朱雀院の行幸、今日なむ、楽人、舞人定めらるべきよし、昨夜うけたまはりしを、大臣にも伝へ申さむとてなむ、まかではべる。
【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君の噂を聞いた光源氏は、「零落した悲劇の姫」という設定に憧れと好奇心を抱き、乳母子の大輔命婦の手引きにより、ようやく逢瀬を迎えました。
源氏物語イラスト訳
「しか。まかではべるままなり。
訳)「そう。退出したそのままで ございます。
朱雀院の行幸、今日なむ、楽人、舞人定めらるべきよし、
訳)朱雀院への行幸において、今日、雅楽奏者や、舞を舞う人が決定されるはずの旨を、
昨夜うけたまはりしを、大臣にも伝へ申さむとてなむ、まかではべる。
訳)昨晩承ったので、父左大臣にも申し伝えようと思って、宮中を退出して参ってございます。
【古文】
「しか。まかではべるままなり。朱雀院の行幸、今日なむ、楽人、舞人定めらるべきよし、昨夜うけたまはりしを、大臣にも伝へ申さむとてなむ、まかではべる。
【訳】
「そう。退出したそのままで ございます。朱雀院への行幸において、今日、雅楽奏者や、舞を舞う人が決定されるはずの旨を、昨晩承ったので、父左大臣にも申し伝えようと思って、宮中を退出して参ってございます。
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■【しか】…そう(指示副詞)
■【まかで】…ダ行下二段動詞「まかづ」連用形
※【まかづ】…「退出す」の謙譲語(頭中将⇒帝)
■【はべる】…ラ変動詞「はべり」連体形
※【はべり】…丁寧の補助動詞(頭中将⇒光源氏)
■【まま】…そのまま
■【なり】…断定の助動詞「なり」終止形
■【朱雀院(すざくゐん)の行幸(みゆき)】…朱雀院への桐壺帝のお出かけ
※【朱雀院】…歴代の天皇が退位後に住んだ後院(ごいん)。朱雀大路の西にあった
※【の】…連体修飾格の格助詞
※【行幸(みゆき・ぎゃうがう)】…天皇のお出かけ
■【なむ】…強意の係助詞(結びの流れ)
■【楽人(がくにん)】…雅楽の奏者
■【舞人(まいびと)】…舞を舞う人
■【定め】…マ行下二段動詞「さだむ」未然形
※【さだむ】…決定する
■【らる】…受身の助動詞「らる」終止形
■【べき】…当然の助動詞「べし」連体形
■【よし(由)】…主旨
■【うけたまはり】…ラ行四段動詞「承る」連用形
※【うけたまはる】…「聞く」の謙譲語(頭中将⇒帝)
■【し】…過去の助動詞「き」の連体形
■【を】…順接の接続助詞
■【大臣(おとど)】…ここでは、頭中将の父である左大臣のこと
■【に】…対象の格助詞
■【も】…添加の係助詞
■【伝へ申さ】…サ行四段動詞「伝へ申す」未然形
※【伝へ申す】…「言ひ伝ふ」の謙譲語(頭中将⇒父大臣)
■【む】…意志の助動詞「む」終止形
■【とて】…~と思って
■【なむ】…強意の係助詞(結び;「はべる」)
■【まかで】…ダ行下二段動詞「まかづ」連用形
※【まかづ】…「行く」の謙譲語(頭中将⇒帝)
■【はべる】…ラ変動詞「はべり」連体形
※【はべり】…丁寧の補助動詞(頭中将⇒光源氏)
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【本日の源氏物語】
「朱雀院」というのは、『源氏物語』では、桐壺帝の次の天皇のことをもさしますが、ここでは、帝が譲位したあとに住まう後院のこと。朱雀大路にあるから、朱雀院といいます。
その「朱雀院」への行幸とは、一大事ですよね!
その時の楽人や舞人が決められるとのことで、宮中に参内した頭中将――。
あれっ? 光源氏が参内していないぞ! ということで、家に帰り、ついでに二条院へ立ち寄ったのでしょう。
貴族は、一般的に、朝早くに参内して、宿直のない日は、昼ごろ帰ります。
頭中将は、宮中からの帰りがけなのだなと、当時の常識をふまえて、光源氏はすぐに分かったのですね。
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