今回から、嬉野流側が▲78玉まで囲ってから仕掛ける形を調べていきます。

 

居玉でもなかなか骨の折れる相手でしたが、囲ってくると更に対応が難しくなります。居玉の時ほど強い戦いを挑む事はできません。

 

早速、具体的に見ていきます。基本図は下図です(▲78玉まで)。

 

 

ここで後手の手番です。居飛車が囲ってきたので、振り飛車もできれば美濃囲いを目指したいところですので、△82玉を選んでみます。

 

さて、ここで居飛車から早仕掛けをしてみましょう。▲35歩△同歩▲46銀で下図です。

 

 

ここで△36歩はありますが、▲79角△15角▲16歩△48角成▲同飛が一例。次に△33桂~△45桂で手は続きますが、振り飛車の攻めが少し細いでしょうか。今回は相手が居玉ではないので、ここまで強く戦うのも勇気がいります。

 

 

△36歩に代えて、△34銀▲79角△42角で済むなら、それに越したことはありませんが、どうでしょう?

 

居飛車の主な候補手は▲55銀と▲38飛です。

 

(1)▲55銀

 

44の歩取りです。△43銀で受ける場合、▲46銀△34銀▲55銀~の千日手コースになるかもしれません。

 

今回は後手なので千日手でも構いませんが、もし千日手を打開したいなら、△45歩と避ける手があります。

 

 

この後、▲46歩△同歩▲同銀や▲44銀で、▲38飛の後に▲35銀を狙われる展開が予想されます。

 

▲44銀△54歩▲38飛△64角▲55歩△同歩▲35銀が一例で、これでも振り飛車の方がやや指せると思いますが、やりたい事をやれているのは居飛車でしょうか。

 

 

(2)▲38飛

 

△54歩▲35銀△同銀▲同飛△同飛▲同角△28飛▲38銀が一例で、互角の勝負です。

 

▲38銀が好手で、▲39金では△25飛成▲44角に△38歩があります。

 

 

 

という事で、▲55銀と▲38飛のどちらも、あり得なくはない手だと思われます。

 

やはり、囲ってきた嬉野流は手強いです。△82玉では実戦的に危険かもしれません。

 

 

そこで、△82玉に代えて△54歩としてみます。これでひとまず▲55銀は消えましたし、△64角が一手早まります。

 

では、△54歩に対して早仕掛けをしてみましょう。▲35歩△同歩▲46銀で下図です。

 

 

ここで先ほどのように△34銀とすると、▲79角ではなく、▲38飛と先に飛車が3筋に回ってくる手が有効になるようです。

 

▲38飛に対して△42角なら、▲76歩と居角で角を活用する手があります。

 

この筋は、先ほどの△82玉の時(△53歩型)では、△45歩▲57銀△33角とぶつける手が利き、▲同角成△同桂で角交換にはなりますが、一応受け止める事ができます。

 

しかし、今回の△54歩型では、角交換の後に▲53角と打つ手があります。△52金左の一手が間に合ってないのを突かれた部分もあります。

 

 

▲44角成は許せないので、△62角▲86角成の進行が妥当です。形勢は互角ながら、馬を作った居飛車が実戦的に指しやすい感があります。

 

居飛車としては、▲79角を保留しておいたのが活きた変化です。変幻自在ですね。マジで手強いです。

 

こうした事情があるため、△34銀に代えて△42角で飛車の利きを通して35を補強するのが無難な選択です。ここで▲76歩なら、嬉野流ではなく通常の対抗形の将棋になりますので、先手が嬉野流党である以上、▲38飛か▲79角が考えられるところです。

 

ただ、ここで▲38飛には、実は△45歩があります。▲同銀は△33桂で居飛車が駒損してしまいます。

 

 

△45歩に▲35銀なら、振り飛車は△64角と出ます。そこで▲24歩は△37歩で痺れます。

 

△45歩に▲37銀や▲57銀なら、△34飛と浮いて▲76歩に△33桂を用意します。

 

したがって、▲38飛に代えて▲79角で35への利きを足すのが本線です。ここで△45歩には、▲35銀と出て問題ありません。△64角には普通に▲37歩で受かります。

 

なんかもう、何気ない一手一手ですら難しくなってきましたw

 

▲79角に対して、振り飛車は△34銀と支えます。

 

 

この手に▲38飛なら、△64角と出ます。△19角成の狙いだけでなく、▲35銀に△37歩を用意しています。

 

△64角に対して、居飛車の候補手は広いのですが、ここでは▲76歩と▲55歩を検討してみます。

 

(A)▲76歩

 

次に▲88角として、▲44角を狙う含みがあります。振り飛車は手が広いところで、△62銀の早囲いや△42金で手厚く受ける準備をする手などあり、どれも一局です。

 

しかし、この瞬間に過激に行くなら△45歩があります。

 

△45歩に▲37銀と引くなら、△36歩▲28銀△35銀▲88角△33桂で一局ながら、仕掛けた居飛車からすれば不満な展開でしょうか。

 

振り飛車には、一応△25桂が権利としてあり、美濃に組む楽しみもありますが、居飛車は玉を堅くする手段に乏しい上、歩切れのため攻めもありません。

 

ただ、居飛陣の37が堅すぎるため、△25桂~△37歩成からバラしても潰しきれず、居飛車に駒を渡す罪の方が大きいです。形勢は振り飛車がいいですが、実戦的には簡単ではありません。

 

 

戻って、△45歩には▲35銀が本線です。

 

この手に△19角成は、▲34銀△37歩▲同飛△同馬▲同桂△34飛に▲43角の好打があります。

 

 

以下、△31飛▲88角△19飛に▲39歩が堅すぎます。振り飛車が歩切れな事も痛く、居飛車十分でしょう。

 

よって、戻って▲35銀には、予定通り△37歩が本線です。

 

振り飛車の銀得が確定したようですが、▲同桂(▲同飛△同角成▲同桂も有力)と応じるのが好手。

 

△35銀に▲33歩が手筋のたたきで、△同飛には▲45桂と捌けます。33の桂が跳んだ事で、飛車取りだけでなく35の銀取りにもなっています。まるで振り飛車のような技ですね。

 

 

この筋を避けるなら、▲33歩に△同桂と応じますが、居飛車は▲35角と銀を取り返せます。以下、△36歩▲43銀△31飛が一例。桂得が確定している振り飛車がやや指せるでしょうか。

 

 

 

(B)▲55歩

 

△同歩▲35銀△同銀まではほぼ必然。

 

ここで▲35同角なら、先手の手ではないので△56歩が入ります。以下、▲46角△38飛成▲同金△46角▲同歩で大駒が総交換になるのが一番爽やかな順。△56歩の拠点が大きく、△49飛と飛車を先着した振り飛車がいいです。

 

 

よって、▲35同飛が本線。以下、△同飛▲同角△27飛▲38銀△25飛成の局面が下図です。

 

 

△25飛成に▲46角は、△56歩に対して▲64角だけでなく▲22飛を用意した手で、もし▲22飛に△32銀と受けてしまうと、▲64角△同歩▲54角が決まるという恐ろしい狙いを秘めています。

 

▲46角には、▲43飛を消す△32銀や△34竜が好手。次に△45歩で角をどかす手を狙って振り飛車よしです。41の金を動かして43をカバーしても、他の飛車打ちが生じてしまいますので、注意が必要です。

 

△25飛成に▲44角がAIの示す最善手です。△33銀で角が詰みますが、▲同角成△同桂▲21飛と打ち込んで勝負できます。

 

以下、△31歩▲11飛成△56歩▲37桂△34竜が進行の一例。AIによると振り飛車がやや指せますが、実戦的には互角でしょう。

 

 

 

ここまで、嬉野流の早仕掛けについて調べてきました。

 

形勢的には振り飛車に振れる変化が多いのですが、嬉野流が囲ってきた事もあり、実戦的には簡単ではない印象です。

 

振り飛車は無事に美濃に組む事さえ容易でありません。鳥刺し恐るべしです。

 

そこで、次回はこの早仕掛けに対して、最初の▲35歩をそもそも取らない変化について検討してみます。

 

四間飛車では無理ですが、三間飛車であれば実戦的にあり得る選択だと思います。